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    わかめ

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    わかめ

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    綾人くんのお誕生日の話

    お誕生日おめでとう/綾鷺今日は3月11日、そう…綾人の誕生日だ。
    誕生日自体は朝会った時に祝ったし、プレゼントもその時に渡した。
    凄い嬉しそうに「ありがとう。」って言ってくれたのは、今目を瞑ればすぐに思い出せる。

    今は夕方で、学校の授業も終わり、部室に用があった僕が綾人を連れて二人でサッカー部の部室にいる。

    「部室に用があるって…どうしたんだ?」

    「もうここには入らないから…荷物を取りに。」

    再来週僕は卒業するわけで、もう部活の送別会も終わっている。
    僕以外の部員はまだこの部室に出入りしているけど、僕はそんなことしない…したくない。

    「…そっか。」

    特に深掘りするわけでも無くそう言った綾人の瞳を見れば、少しだけ切なさの混じったなんとも言えない物だった。

    「ごめんね、もう終わったから…帰ろう?」

    「寄り道ぐらいいいよ。その分未鷺と一緒に居られる。」

    綾人はどうしてこう…そう言うことがさらっと言えるのだろうか?
    隣を歩く綾人をチラッと見ると、僕の視線に気付いたのか、「ん?」と首を傾げている。
    自分ばかりドキドキしっぱなしでちょっとイラっとしたけど、結局僕は彼に弱いので微笑み返してしまう。

    「…それにしてもやっぱり3月はまだ寒いな。」

    息を吐いて息が白くなると言うことは流石になくなったけど、まだまだ寒いのは続いている。

    「早くあったかくなるといいね。」

    「…んー、それはちょっと嫌だな。」

    暖かくなったら僕が卒業して簡単には会えなくなるからだろう。
    僕も少しは寂しかったりするけど、別に長い間会えなくなるわけじゃないのに、とは思う。

    「二週間に一回は実家に帰るんだから会えるでしょ?」

    「今はほぼ毎日会ってるだろ?」

    「電話だってするし、そんなに気にすることじゃないよ。」

    「あー、早く卒業してー。」

    大きい子どもが駄々をこねているみたいで少し面白い。

    「僕ってそんなに信用ないの?」

    「信用ない。…お前すぐ無茶するし溜め込むからさ、そばにいないと心配なんだよ。」

    あまりの即答に少し笑いそうになったけど、まあ…溜め込むのは事実だし言えてる。
    綾人の力を借りたら彼はそれだけで少し不安が減るだろうが…僕に人を頼ることができるかは…まだ分からない。
    魔物の一件からもう無茶はしないように…と思っているけど、甘え方なんて分からないし頼り方もわからない。
    …なんて、それは言い訳だってわかってるけど。

    「…うん、知ってる。」

    知ってるからこそタチが悪いことも…もちろん知ってる。

    「…んとに、お前のそう言うとこ変わらないよな。ま、いいけどさ。」

    これ以上話しても埒が開かないのは目に見えているので、諦めるかのように切り上げるのはいつものこと。

    「本当に寒くなってきたね。」

    後もう少しで僕の家に着くけど、風も吹いてきて本当に寒い。
    手でも繋いだらあったかくなるかな…と思って綾人の手を見るけど、外で繋ぐ気にもなれないので自分のコートのポケットに手を突っ込んだ。
    すると数秒後、僕のポケットに僕以外の手が入り込んできた。

    「あったかいな。」

    そう言いながらポケットの中の手は恋人繋ぎになっていて、手を伝って綾人の熱がじんわりと感じられる。

    「うん、そうだね。」

    初めの頃は綾人に触れているだけで心臓がバクバクしていたことが聞こえないか不安だったし緊張していたけど、今は少し慣れたようで…この早く脈打つ鼓動も心地よく感じる。



    数分、他愛もない話をして僕の家の前まで来てしまった。
    明日は休みだが、幸いにもお互い用事はないのでまた明日も会える。

    「それじゃあまた明日。」

    僕がそう言うと繋がれていた手は解かれて、今度は僕を優しく包んだ。

    「綾人…?」

    優しかった腕の力は徐々に強まってきて、綾人の腕から離れたくない名残惜しさを感じる。
    数秒抱き合ってから気持ちを落ち着かせたのか、ゆっくりと腕が離れていった。

    「また明日。」

    そう言う綾人の顔は寂しさを滲ませた笑顔だった。
    この時は大体綾人からは帰らないので僕が先に玄関に入るのがいいんだけど…、僕も珍しく彼の気持ちに感化されたのか、少し離れるのが名残惜しい。
    正直に言えば、学校じゃなかったらちゃんと当日にもっと誕生日を祝ってあげたかったな…なんて。

    「未鷺が中はいらないと帰れないから早く。」

    ちょっと困ったように頭をかきながら、綾人は僕が家の中に入るのを待っている。

    「…ごめん、じゃあまたね!」

    これ以上待たせるのも悪いので、手を振りながら後ろを向いてドアノブに手をかけて一瞬。
    一つ、したいことが思い浮かんだ。
    それは僕にとっては凄い勇気のいることだけど、恋人である綾人の誕生日を祝いたいという気持ちに正直に…。

    「綾人、一つ忘れ物!」

    「…ん?」

    振り向いて綾人の所に走って向かうと、その勢いで彼の唇を僕の唇で塞いだ。
    そしてすぐに離れ、今度はさっきよりも早く走って家の中に逃げるようにドアノブを開けた。

    「明日ね!」

    チラッとみた綾人はまだ状況が把握できていないのか、目をパチパチさせて固まっていた。
    その姿に少し笑みが溢れながらも、これ以上開けたままにしておくと捕まってしまいそうなので静かにドアを閉めた。

    「……はぁ〜。」

    僕から綾人への初めてのキス。
    今までキスなんて何とも思わず自分からしていたのに、綾人から僕にしてくれるキスよりも何倍も、自分から彼にするとなると緊張する。心臓が飛び出るかと思った。

    「あれ、にぃに大丈夫?蹲って具合が悪いの??」

    ドアの音で僕が帰ってきたのを悟ったのか、玄関の方に雛珠が来ていた。そして、僕はいつの間にか蹲っていたらしい。

    「ううん、ちょっと熱いだけ。」

    「ふーん。寒いのに暑いなんて変なの〜!」

    不思議そうに首を傾げながらも、雛珠は居間の方へ歩いていった。
    そして、僕もこの熱を早く冷まそうと雛珠の後をついていったのだった。
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