闇と遊んだ記憶 闇の中で手を引かれて歩いた。僕は多分その時迷子で、右も左も分からなくて。
僕の手を引く大きな手は暖かくて力強くて、僕は勇気をもらったみたいな気持ちで、泣かないでいられた。でも結局、あれは誰だったんだろう。
「分かりますにゃ」
にゃーん、と猫又が営業を仕掛けてきた。碌な事にならないから断れよ、とKKにはいつも言われていたけど、この時は好奇心と懐かしさが勝ってしまった。こっそり貯めていた冥貨を注ぎ込んで、猫又からそれを買う。
記憶はっきりするーん、とか何とか。かなり胡散臭い名前だったけど、僕はその和綴じの冊子のようなアイテムを言われた通りに枕の下に敷いて寝た。
それが今夜で、いま、ここは夢の中だ。
「迷子か、ガキ」
ずいぶん大きい人だと思っていた。でも、男の人の身長は今の僕とそんなに変わらない。鍛え上げられているのに威圧感のない、優しいシルエット。その顔には見覚えがあった。
「え、うそ」
若い、けど、この顔は。
「KK……」
嘘みたいだった。こういうところが胡散臭いってことなんだろうか。僕は目を白黒させながら、男の人————KKを見た。
暗闇を抜けるまで絶対に喋るな、と言ったきり押し黙った、男の人を。
僕が泣きそうになると、その手を僕の頭に乗せて乱暴にかき回して、男の子だろ、と短く言って歩きだした、その人を。
「KK、だったのか?」
気付いたら闇を抜けていて、そこにはもう、KKの姿はなかった。
にわかには信じられないけど、信じない理由もなかった。KKは、子供に優しい。
「何だよもー……言ってくれよ」
KKは自分の善行を誇らない。当然のことのようにそれを行い、偽悪者を気取る。恐らくKKが僕をあの時の子供だと認識しても、それを誇ることなどないだろう。いつものように「子供は嫌いなんだ」と、暗に何もしていないというように振る舞う。
好きだ、と思う。改めて、好きだと。
怪異に魅入られた幼い僕を助けてくれたまだ若いKKは、今も変わらず最高に格好いい正義の味方だ。
これが恋だと知ってから、気付けば何度も、何度も、こうして惚れ直している。
この恋が叶わなくても、僕は、ここに留まり続けるだろう。それほどに、僕は、KKが好きで、好きで堪らない。
「絶対、振り向かせてやる」
そのためなら何だってする。僕は、そう決意を新たにして、眠りの中でまた眠りについた。
ねえKK、猫又のアイテム、そんなに碌でもないものじゃなかったよ。
そんなことを、思いながら。