プレゼント(けあきデー)「デパートの父の日コーナーで見かけて、何かいいなって思って……」
父の日に暁人がプレゼントを寄越してきた。年が離れてるとはいえ、恋人相手にこの日付でプレゼントかよ、と思ったりもしたが、暁人の家庭環境を思い出してそれもありか、と思い直すなどしたオレは何とも優しいと思う。
「ネクタイねぇ」
「気に入らない?」
「いや、いいんじゃねぇか? オレじゃ選ばないようなデザインだが、悪くないぜ」
ネクタイは紺と灰と白の斜めに走った太めのストライプが洒落ていて、普段使いするより次に二人で出かける時に付けたほうがいいな、とオレをニヤけさせる代物だ。暁人は若いし、センスがいい。オレにセンスがないとは思いたくはないが、若者の暁人からすれば古臭く感じるところもあるだろう。だからこうして暁人に何かをプレゼントされたり、コーディネイトに口を出されたりするのは、正直悪くないと思っている。むしろ好ましいくらいだ。
「ネクタイってのは、贈る時に特別な意味があるんだろ? 追加でオマエをプレゼント、なんてのはないのか? 暁人くんよ」
「えっ……」
暁人の顔がさっと赤く染まる。本当に「目に止まった良いもの」をオレにくれるだけのつもりだったらしい。オレは楽しくなって、暁人の腰に腕を回した。普段から「KKは声が良すぎるから、気を付けて喋って欲しい」と言われていたことを思い出しながら、オレは暁人の耳元で囁く。
「なあ、どうなんだよ。分かってるとは思うが、オレはオマエの父親じゃないんだぜ?」
「……もう! 分かってるくせに! だいたい僕をプレゼントっていうけどね……もう持ってるでしょ……!」
暁人はオレを押し返すと、耳まで真っ赤にしながら踵を返し、台所に駆け出した。洗い物を始めた暁人は、もうオレと目も合わせない。
可愛すぎないか?
オレはうっかり顔がニヤけまくるのを感じながら、手で顔を隠した。仕方ない。もう、これは仕方ない。
「暁人!」
沈黙で返されるが知ったことか。
「今夜はイケナイコトしようぜ」
そう言って、寝室に引っ込む。盛大に食器がかち合う音がしたが、暁人の拒む言葉は返ってこなかった。オレは暁人からのプレゼントを脇机に置くと、ベッドに腰掛ける。
やがて食器を洗った暁人が、恥ずかしそうな顔で寝室のドアを開けてくる。もしかしたら挑むような顔か。
どちらにしろ楽しみすぎて、オレはドアを見つめてほくそ笑んだ。