デリシャス・イン・マンション 食べることは生きることだ。生きることは楽しいことだ。
そう思えたのはあの夜のお陰で、それまではただ生きるために食べていた。楽しいなんて思ったこともない。
バイトの掛け持ちや力仕事でたくさん食べてはいたけど、それだけだ。それが変わったのは、変えてくれたのは、ほかの誰でもない、僕の相棒。KK。
「本当によく食うよな」
「うん、美味しくてさ。美味しくて美味しくて、止まらないんだ」
アジトで作った山盛りのチャーハンをかき込む。笑う声がして食べるのをやめると、KKが笑っていた。
「それでどうして太らねぇんだよ、オマエ。腹の中にブラックホールでもあるんじゃねぇのか」
食べ物で一杯になってるお腹を両脇から押さえられて、僕は苦しさよりもくすぐったさで笑った。
おかしくて、くすぐったくて、僕は笑う。口の中がちょうど空で良かった。思いっきり笑える。
KKと共にあることが幸せで、嬉しくて。また、お腹が減る。
ブラックホール。本当だ。
「ねぇKK」
「おう?」
「本当にブラックホールがある気がしてきた。ねぇ、お腹に栓してよ。このままじゃ、どうにかなっちゃうかも」
僕の脇を押さえていたKKの手の上から、なぞるようにして手を添える。添えた手を滑らせて、ゆっくりと指を絡めていく。
恋人の繋ぎ方。こんなふうに、相棒にはしない。
でも、KKには。
あんたには、こうしたい。
「暁人……」
KKの喉仏が上下する。唾を飲み込んだのが分かった。僕の、したことで。
「オマエ、本当に暁人か」
「そうだよ。誰だと思ったの」
「夢魔」
昼に見る夢なんて、願望でしかないのに?
「だったらどうする? KK」
「怖ぇな。これが夢でも現実でも、もう止まれねぇ」
夜に見る夢の内容は忘れた。でも、間違いなくこれが欲しかった。
食べることは生きることだ。生きることは楽しいことだ。
だから僕を生かして。生きる楽しみを教えて。
「ねぇ、ブラックホールに栓したら、どうなっちゃうのかな」
KKは答えない。僕もこれ以上、何も言わない。だって、楽しくて。
僕を手に入れるのが怖いなんて、そんな、可愛いことを。
舌打ちの音がして、KKの唇が僕の唇を食べた。
ねぇ、たのしいね。
僕たちは、生きている。