メイドの日「おい、それは何だ」
「男性サイズのメイド服ですにゃ」
にゃーんと猫又が、何でもないことみたいに言う。KKは青くなったり赤くなったりしながら、刃物みたいな声で言った。
「オレも暁人も着ねぇぞ」
「女狐の格好はするくせにぃ」
「オレはしてねぇし、あれは強いから、いいんだ」
「じゃあ、暁人は? 暁人は着てくれる?」
にゃーんと、可愛く首を傾げられた。そうは言われても。
「KKが嫌がることは、したくないなぁ」
「そんにゃあ」
困り眉の猫又、かわいいな。
でもダメだ。メイド服は二着。このままだとKKまで、メイド服を着る羽目になってしまう。
ちょっと見たいけど、だからってKKが嫌がることは、本当に本意じゃない。だから僕もお断りする。ごめんね。
「二人で着ると一日三回だけ絶対共鳴出来る一品なのにゃ」
「えっ……」
「あ?」
女狐といい、このメイド服といい、どうして女装装備ってこんなに強い効果持ちなんだろう。ほら、KKだって本気で迷い始めた。あれがどれだけ強くて得難いものか、エーテル関連で苦労してきたKKだからこそ思うところもあるんだろう。
「着ないぞ」
「だってさ。ごめんね猫又。諦めて」
でもやっぱり嫌だよね。分かる。僕だって出来れば着たくない代物ではあるから。
うん、残念だった。残念だったなぁ。
「絶対共鳴は一日一回だけになるけど、メイド服と執事服のセットもあるにゃ」
「買った」
「買うなよ!?」
僕が猫又に冥貨を払っていると、KKが絶対共鳴みたいな顔色で僕を止めに来た。
「大丈夫。メイド服はロングスカートだから、女狐ほど恥ずかしくないよ」
「オマエ強えな!? いやそうじゃねぇよ! いいのか!?」
「いいよ。女狐は強い装備だけど、僕専用でしょ。KKの強い装備も欲しかったし、それに」
一旦言葉を切って想像する。執事服を着たKKの格好良さ。
うん、良。良すぎる。
「KKの執事姿、見たかったから」
「見たがるな」
「僕のメイド服、見たくない?」
ちょっと黙っちゃうKK、素直で素直じゃなくて、可愛いと思う。キュンとする。格好良いのに、こういうギャップが、本当に好きだ。メイド風に言うと、萌え萌えきゅんだ。
「オレが買ってきたのでも……」
「ん?」
「何でもねぇ!」
それは、プレイ用のあからさまにえっちなメイド服のことだよね?
着ないよ? だって、恥ずかしいじゃないか。
僕だって男なんだから、何でも喜んでやってると思われるのは、心外だ。
スカートの開放感は、嫌いじゃないけど。恥ずかしいものは恥ずかしいんだ。
そんなこんなで執事メイドセットをお買い上げした僕は、これを着るほどの強敵が現れることを、手ぐすね引いて待ち望んでいる。
「メイド服は着てくれなかったにゃ!」
「そうか」
「でも執事メイドセットは売れたにゃ!」
「それは重畳。では、メイドセットは引き取らせてもらう」
「いつも思うけど、何で直接渡さないにゃ?」
「…………その場で破られるとは思わないか」
「ごめんにゃ。その通りにゃ。じゃあ、毎度ありにゃ」
祟り屋さん、いつもありがとうにゃ!