月で輝くナイフより 日がとっぷりと暮れた、夜半前。天城邸の裏手に茂る森では、凍える風が樹々の隙間を吹き抜けるのもお構いなしに、梟の親玉が鳴き声を太く短く奏でている。ここからは自分達の独壇場だ、とでも言っているかのようだ。次第に高く掠れた声、低く伸びやかな声が重なっていき、森の小さな合唱団によるコンサートが粛々と始まった。
天城邸の森側には硝子窓が嵌められた廊下があり、耳をすませば彼らの歌声を聴くことができる。厨房の入り口はこの窓に面しているため、深夜に利用すれば聴衆になれるのだが。厨房に一人残っているニキは興味を持たず、廊下を素通りする日々を過ごしている。この時間、ニキが聞きたいのは待ち人である一彩が近づいてくる音のみなのだ。革靴が絨毯越しに床板を叩く音は、食事の準備を進めるニキに幸せな時間の始まりを告げてくれる。軽やかで時に忙しなく響くそれに、ニキは毎夜胸を高鳴らせていた。
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