GIFT FOR YOU指先で摘んだボンボン・ショコラを口元に運ぶ。オレのではない。腕の中で悠々とくつろぐ恋人の、だ。自分からは死角になって見えない口元に丁重に差し出す。
まるで餌やりだが、相手が相手だから気が抜けない。口に運ぶタイミングと順番を外せばマヌケ呼ばわりは避けられないだろう。
「......どうだ?」
胸に預けられた頭を覗き込むように伺っても、村雨は特に不満もなくその甘さを味わっているようだった。
「美味い。私好みだ」
丁寧に味わったあと、頷きながら村雨がそう言ったのを聞き、思わず拳を握った。
実にシンプルな感想だが、素直に嬉しい。
それは紛れもなくオレがさっき村雨に渡したバレンタインのチョコだったが、何故こんなことになっているかと言えば、村雨の
「そこに座れ」「もう少し脚を広げろ」
という傍若無人極まりない命令のせいであり、チョコを抱えた村雨がそのまま自分の脚の間に当然のごとく収まるのを、止める間もないまま許したせいである。
村雨は「ほう。ラッピングもあなたが?」なんて言いながら、オレにも伝わる程度の喜色を湛えてリボンを解き、そして「頂こう」と言うとまたそうあって当然とばかりにオレにそれを促した。
一粒、また一粒と口に運び、最後の一つが村雨の口に消える。
二杯目の珈琲を用意するか。
ココアパウダーのついた指先を拭おうと腕を下ろしかけたとき。
「あ?」
見えない指先に温く湿ったものが触れた。
思わず間抜けな声を漏らして固まったオレを、すかさず追撃が襲う。ぬるり、と指先をゆっくりと舐め溶かすような舌の感触。顔まで一気に血が上り、全身熱くなる。
「おい......」
ちゅぷ......と小さな音を立てて指が村雨の温かい口内から解放されたあと、どうにかして失われた言葉を絞り出した。
「......先生、品はどうしたんだよ」
「こういう日には相応の楽しみ方があるだろう」背後にちらりと視線を寄越した後、愉快そうに目の前の肩が揺れる。
「それに」
村雨は少し首を傾げると平然と言う。
「あなたはこういうのが嫌いではないはずだ」
呆れ、羞恥、怒り、諸々の感情を噛み締め、歯の隙間から長く息を吐く。
「はーー......そりゃ好きだけどよ!好きっつーかこんなもん......!オメー......」
言いたいことならある。あるのだが、無駄だ。
......オレの胸に頭を預けた村雨が満足げに聴き入っている音が何かなんて分かりきっている。
自分でもうるさいくらいだ。
「バレンタインだからな」
「......いい歳の大人が本気で浮かれるぞ」
「フフ、今日はバレンタインで我々は恋人だ」
「そーだな。じゃあ何の問題もねーな?」
「あぁ、そういうことになる」
鷹揚に頷いた恋人からのギフトを受け取らないわけにはいかない。
唇に落としたキスが甘い。
こちらを見あげるその表情は、おそらくオレだけが味わうことを許されているもので。
あぁ、それが悔しいくらいにオレ好みなのだ。