たいみつとはち たった1ヶ月離れている間にずいぶんと冷えるようになった久しぶりの故郷の夜、「帰ってきたら飲もうぜ!」と約束をしていた世話焼きな兄貴分の姿は、気づけばローテーブルの向こうに沈んでいた。
「あれ?タカちゃん寝ちゃった?」
「むしろこの時間までよく持った方だろ」
2人きりで会えると思っていたのに、当然のように彼の隣を陣取って酒を飲んでいた実の兄は、寄りかかっていたソファーから肌触りの良さそうなブランケットを引きずり下ろす。遠征先はもちろんのこと、二人とも子どもの頃からずっと椅子生活を送っていたが、三ツ谷を中心に回っているこの家では床に直接座って食事をすることの方が多い。
「なんで?今って仕事忙しかったっけ?」
「今週ずっとだな。というより、お前との予定のために前倒ししたんだろう」
最近では任される仕事の量も増えてきたと嬉しそうに話をしていたが、どうやら無理をしてこの時間を作ってくれたらしい。そのことに申し訳なさと喜びが入り交じる。
「自分をおろそかにする癖が抜けねえ野郎だ」
呆れたように溜め息をつきながら三ツ谷の身体にブランケットを掛け、無遠慮に頭を撫でる姿に昔の自分たちが重なる。
母親が死んだ直後から始まったこの男の暴力。動けなくなるまで殴ったその手で、次の瞬間には「愛している」と慈しむように頭を撫でる。幼い自分をコントロールするための嘘ではないかと疑った時期もあったが、(俺は認めてはいないが)恋人である三ツ谷にたいしても同じ行いをしているところを見ると、結局はあれが兄の愛情表現であることには違いないらしい。
「大寿って昔とあんま変わんねぇよな」
「あ?…どういう意味だそれ」
珍しく俺の言葉に動揺した兄が見れたので、今夜は久々の布団でぐっすり寝れそうだ。