ラブレター恋をした。あの名高い自称凡人のDr.レイシオに、このスターピースカンパニー戦略投資部の幹部である僕アベンチュリンが、だけどこの気持ちを伝える気はさらさらない僕たちはビジネスパートナーみたいなものだし相手は僕のことを友人とも思ってないだろうからね
その日は博識学会に用事があったから挨拶がてら彼の研究室に顔を出したんだけど、残念ながらそこには整理整頓の行き届いたデスクがあるだけで目当ての人間は座ってはいなかった。まぁこちらもアポを取ったわけでも急ぎの用事というわけでもないからしょうがない、と帰ろうとしたが扉の前でピタリと足が止まる
(最近会ってないんだよなぁ…)
ここ最近彼と一緒に仕事をしていない、ということは顔すら長いこと見てないということでここに来たのも一目でもいいから顔を見たかったからでもある。彼のデスクを見るとメモ帳とペンがあるので初めは悪戯な気持ちでここに来たことを書いてやろうと思っていたけど
言い訳すると魔が刺したんだ
“好きです”と筆跡がわからないように日頃使わない仙舟の文字を使って書いたメモ用紙を置いてきてしまった。ここで救いなのが相手があのDr.レイシオということだ彼のことだから“馬鹿らしい”の一言であのメモを捨ててくれるだろうということだけ
そんなことがあった数日後久々に彼と一緒の仕事をする機会が来た
「やぁ!教授久しぶりだね!元気にしてたかい?」
「ふん、僕は無駄話ではなく仕事をしに来たんだが?」
「まぁまぁ、そう言わずに何か最近変わったこととか面白かったこととかなかったのかい?これくらいの世間話くらいいいじゃないか」
「はぁ…特にこれと言って僕の思考を刺激するものはなかったが…」
レイシオは小難しい論文の話をし始めたことに安堵する自分と気にも止められなかったのかと落胆する自分がいた
逆に考えよう気にも止められないのであれば勝手に置いていってしまえば良いと
そう言う思考になってからの行動は早かった適当なメモ用紙ではなくどこにでも売ってるメッセージカードを購入して彼のいない隙にデスクに置いて行くようにした
これまた僕の幸運はこんな所にも発揮されるようでカードを置きに行くときに限って博識学会の人間やもちろんレイシオにも出会うこともなくちょっとしたラブレターを置いてくるのがかれこれ3ヶ月続いた
「そろそろ潮時だよなぁ…」
上手いことバレてはいないがいつバレるかわからないしそれに相手にも迷惑だろう。これをやって気がついたのはカードを出せば出すほど気持ちを捨てられると思いきや、溢れかえってもっと書きたくなってしまう所だろうか
「よし」
もう次で最後にしようと決心して僕はレターセットを買った。
任務完了だ僕の心は達成感で満ち溢れている、いつも通り告白の文章を書いた後に今まで送ってきたことの謝罪とこれで最後だということも書いておいた。ズキズキと心が言ってる気はするがこれも時間が経てば気にならなくなるだろう
その2日後、レイシオから
“直接伝えたいことがあるから至急僕の研究室に来れるだろうか?“
と連絡が来た。
(珍しい…)
彼は仕事の連絡しかしてこないもしかしたら早急の案件なのかもしれないと思い
“OK!今日は時間があるから今から行くよ”
実は休日だったのだが緊急を有するかもしれないといつもの服に着替えてレイシオの元へ向かった
「やあ教授!君からの呼び出しなんてめずらしい…」
彼の研究室に入ると彼は自分のデスクに座っていた。それくらいはいつもの光景だ“僕が送った最後のラブレターを読んでいなければ”
「あぁ、すまないがこの手紙を読み終えるまで待っててもらえるか」
「じゃあ座って待たせてもらうね
自分が呼んだくせに待たせるとはどういうつもりだと普通の人なら思うだろう、僕は今それどころではない。動揺するな態度に出せば終わりだ左手をぎゅっと握り込む
「何か仕事も面で不備でもあったかい?僕を呼んだんだから余程の案件と見える」
ニヤリと笑みを浮かべては見るが顔が引き攣ってないか不安しかない
「いや、今日はプライベートな用事だ」
読み終えた手紙を机に置きレイシオが言う
「ぷらいべーと???」
明日は槍でも降るのではなかろうか、この自分のプライベートスペースには何人たりとも入れませんみたいな男が僕を呼んだ?????
「実は相談したいことがあってな」
しかも相談だと???明日は隕石が落ちてくる、確実に
「ここ3ヶ月ほど毎日ではないがデスクの上にメッセージカードを置かれていてな」
「へぇ!もしかしてラブレターかい??」
「そのまさかだ」
「君にそんなことをする強者がいるなんて!すごいね!!!」
白々しい背中から汗が流れそうだ茶化してないとやってられない
「そしてさっき読んだ手紙で送り主は最後にするつもりらしい」
「良かったじゃないか!」
「いや」
いや???????
「僕はこの手紙をそれなりに楽しみにしてたんだ」
ピシリとそんな音が聞こえそうなくらい固まってしまった
「どうしてだい?」
もう心臓はレイシオにも聞こえるんじゃないかというほど動いている
「最初は宛名もわからずイタズラかと思ったんだ、だが相手があまりにも用意周到に姿をくらませるから答え合わせをしたくなった」
「へ、へぇ…」
「どんどん上手くなってはいたが最初の文字の感じからして仙舟人ではないことは把握済みだ」
そう言いながらおもむろに小箱を出してきて“僕が一番最初に書いたメモ用紙を出してきた”
「えっ!?持ってるのかい!?!?」
「当たり前だ、これは物的証拠だぞ」
僕の気も知らないでレイシオは何もなかったかのように“続けるぞ”と言い放った
「わざわざ文字を変えてきたということは僕に字を覚えられている可能性のある人間になってくる」
「じゃあ君が授業を持つ生徒なんじゃないかい?」
「だがこの手紙は僕が教鞭をとっている時に来ているもし僕の生徒なのであればアホの極みだな」
心底呆れた表情を見せた後に僕が送ったメッセージカードを並べていく。まさか捨てられていると思ったものを目の前に並べられるとは拷問ではなかろうか…殺してくれ…
「そしてどんどん字が上手くなっていっているということはどういうことかわかるか?」
「読みやすくなった?」
「マイナスだ!!!!!」
秒でチョークが飛んできた。痛い
「はぁ…文字に慣れてくるということはどれだけ慣れてない文字だとしても癖が出てくるものだ」
「なるほどね…解明しているところ悪いんだけど1番の疑問はどうして僕を呼んだんだい?」
「この手紙は君からのものではないかと思っているからだ」
ヒュッ、そんな音が聞こえた気がした。笑え!!!!!笑い飛ばせ!!!!ギャンブラーならポーカーフェイスを崩されるな!!!!
「あっはは!!!!教授は面白いことを言うねぇ!このカンパニーの幹部である僕がそんな時間があるとでも?」
余裕を見せろ悟られるな指先まで神経を尖らせろ
「僕も君が2日前に僕のデスクに手紙を置いていくまでは半信半疑だった」
“逃げなきゃ”僕の体全てがそう言っている
だが逃げる前にレイシオが僕の肩を抑える方が早かった
「逃がさないぞ、僕は答え合わせをしたいんだ」
レイシオのまっすぐな視線が僕を貫く
「ははっ…そうだよ…僕だよ」
僕にできることは下を向いて彼から視線をそらすことだったがレイシオの手によって無理矢理視線を合わされた
「好きだ」
「はっ…?」
「なんだ聞こえなかったのか好きだと言っている」
意味がわからない今このタイミングでは彼に“僕の時間を無駄に…”とか“金輪際関わらないでくれ…”とかそんな言葉のはずなのに…
「なんだその鳩が豆鉄砲にでも当たったような顔は
僕がどうでも良い人間にこんなに時間を割いてわざわざ答え合わせをするような人間だと思っているのか?」
ぶわりと顔に熱が集まる熱い…顔が真っ赤なことがわかる
レイシオはそんな僕の口に噛みついた