おやすみなさいと言い合いたい するすると伸びる蔦が血に汚れた手を這い、誘う。
誘われるがまま、ふらりと暗い道を歩いていく。
ふ、と後ろから引っ張られる感覚に歩みを止める。
なんだと振り向けば、そこには月がいた。
「 」
月が己を呼ぶ。なんだと返せば、もう一度呼ばれる。
そうっと目を細めれば、よりいっそう引っ張られ、その勢いに身を任せればたたらを踏むように後ろへと下がる。
「帰るぞ」
どこへ?そう問いかけるよりも早く、蔦が巻き付いた手を掴み反対へと歩き出す。
まるであちら側へと行かせないとばかりに。
その頑なな様子に思わず、といったように笑いが込み上げる。
笑っていれば、その月は立ち止まり、不服そうにこちらを見上げてくる。
「何を笑っている」
「ふっふふ」
「おい」
「そんなに行ってほしくないか」
問いかければ、見上げていた清廉な水面が下を向く。
「…ああ」
「そうか」
問いの答えによりいっそう笑いが込み上げ、隠すこともなく笑っていれば、ふて腐れた空気を纏いながらも歩みを再開する。
「飲月、飲月よ」
「俺は飲月ではない。が、なんだ」
「共に死のう」
握られた手にぎうっと力が籠る。
拒絶されようがされなかろうがどうだってよかった。
ただ、そうしたい。そう刃は思った。
二度と、この孤独な龍を独りにはしたくなかった。