【プレゼントの行方】
クリスマスにはプレゼントを贈るものらしい。
同じゼミ生である友人の力強い言葉が、休講でがらんとした冬の昼間の教室によく響いた。
オレの感覚としては、クリスマス+プレゼントというと=サンタクロースだったので「贈られるんじゃなくて?」と聞き返したところ、それはお互いが贈りたいと思い合った結果のことであるらしい。
恋人同士においては。
世の中の恋人の何割がそう思っているのかはわからないが、少なくともオレは”クリスマス”と”恋人”というその二つがまったく結びついていない。中学高校ともずっと頭のほとんどを部活が占めていたこともあるかもしれない。
大体恋人という存在ができたのもつい最近のことで、それをうっかり話してしまってこんな話題になったんだった。目の前の友人は自分が恋人に何を貰ってどうだったなどの愚痴か惚気か判断のつかないエピソードを途切れることなく語っていて、どっちにしても楽しそうには見える。
あいつが、クリスマスのプレゼントというものについてどう思っているのかはわからないが、そりゃあ贈って喜ばれるものならそうしたい。サプライズになったとしてもそれはそれで楽しいし、驚く顔が見られるのも悪くない。
ただ。
伊月がオレからもらって嬉しいものって、何??
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クリスマスだから、という意図があいつに、葉山にあるとは正直まったく思えなかった。
この時期の大イベントであるウィンターカップもお互い母校の試合をそれぞれ友達と観に行くことになっているし、予定の空いている日程のなかから二人で会おうということになったのがたまたま12月25日だったんだろう。
とはいえケーキくらいは食べてもいいような気がするが、何か所謂プレゼントみたいなものを用意しておいた方がいいのかどうかがわからない。
贈って喜ばれるならそうしたいが、焦らせてしまったら悪いような気もするし、驚かれるのもなんだか気まずい。一度悩んでしまったからには今更尋ねるのも躊躇われる。
理工側の図書棟は人もまばらで静かだった。みんなこの時期の空き時間は大体ゼミ室か研究室にいるんだろう。
冬休みに取り掛かるレポートのための資料を集めようと来たはずだったが、25日について思考を巡らせていたらけっこう時間が経ってしまった。恋人のことを考えていて学業がおろそかになったかのような状態だ。浮かれているわけでもないのに、と思うと却って自分がそうなっているかのようで極まりが悪い。
両思いなんてなるもんじゃないな、向いてない。
いっそ友達だったら、気兼ねなく何か軽く用意しといてやろうかなんて思えたんじゃないだろうか。
図書棟を出ると中庭の冷たい空気がぶつかり思わず身をすくめた。室内は暑いくらいだったしクールダウンに丁度いいとすこし歩いて足を止める。頭もだんだん冷えてきたような気がする。
そうだな、プレゼントというよりは景気よくケーキでもおごってやろうかな。キタコレ。気にするようなら奢り返してもらえばいいし。
ただあいつが何か用意していたら………まあまず無いからいいか。
結局その日が楽しみだということには変わりないんだ。息を吐いて、すっかり身体が冷えてしまう前に教室棟に向かって歩き出した。
🎄