「ね〜〜、どうやったら冒険者登録証なんて大事なもん失くせる訳?」
「うっせえなぁ…お前の荷物が多いんだよ、服も化粧品も人形も全部捨てろ」
「はいはいは〜い」
売り言葉に書い言葉を体現したような口喧嘩をしながらコージと🌱は部屋中をひっくり返していた。タンス、引き出し、ありとあらゆる引き戸は開け放たれ、コージは退屈そうに山盛りの封筒の中身を机の上に開封し、🌱は押入れの中に頭を突っ込んでいた。
「絶対どっかにポンと置いてあるよぉ…こんなとこにある訳ないじゃん………ん?」
「あ?あったかよ?」
「や…そ〜じゃなくて………ねえ、これ、誰?」
目的の物ではない物に気を取られている🌱にため息が漏れそうになるが、元々は自分の失せ物を探してるのを思い出し噛み殺す。機嫌を損ねればこの散らかり放題の部屋を放置し出ていかれかねない。
渋々、椅子から立ち上がって押入れの前に座り込む🌱を後ろから抱く。そして、🌱の手の中にある写真を見た瞬間コージの鼓動は跳ね上がった。忘れていた、否、忘れたことにしていた、数年ぶりに見た最愛の女の笑顔は変わらず美しく、それでいて、仕舞い込んでも、忘れたフリをしても、過去はお前を逃さないと、そう言われている気がした。
奪わせないために、踏みにじられないために、舐められないために、だから冒険者になった。なのにだ。一番失いたくないものを失った。その女の喪失は、コージにとって深い心の疵になっていた。
「………別に、誰でもねぇ」
「昔の女だ」
「ちげえよ」
辛うじて搾り出した言葉。それを即座に切り捨てられコージは苛立つ。余計なものを見つけやがって。
「嘘、わざわざ取っておいてさぁ、なんもない訳ないじゃん」
「いいから、返せよ」
「なんでこれ一枚だけアルバムに挟まってんの?別に捨てろって言ってる訳じゃないじゃん…私も元彼からもらったアクセとか捨ててないし〜」
コージは心の柔らかい場所に触れられるのが嫌いだった。傷付けるためならばまだいい、捩じ伏せ、二度とやるなと分からせてやればいいから。しかし何も知らない癖に踏み込んでこようとする、自分のことを分かろうとする、エゴイズムじみた献身さと好奇心はコージを苛立たせた。
「お前にゃ関係ないだろ」
「あるでしょ、一応彼女なんですけど……へ〜、コージくんってこういう子もタイプなんだぁ」
写真を奪い返そうと手を伸ばすもひらりとかわされる。ついでに腕の中からも逃げ出し、まじまじと写真を眺める🌱。
「触るなって言ってるだろーがッッ!」
「な……なに、よ…ちょっと聞いただけじゃん…」
コージがここまで感情を露わにしたのを初めて見た🌱は酷く狼狽した。触れてはいけない思い出だったと理解する。そして同時に、写真一枚でここまで心をささくれ立てる女がいたということに嫉妬心が沸々と湧き上がる。例えそれが過去のものだったとしても。
「分かった、こっ酷く振られたんでしょ、そんでまだ、引きずってんだ」
「黙れよ!!!!」
意地になり酷い言葉が口をつく。自分が傷付いた分だけコージも傷付けばいい、そして怒りでも悲しみでもなんでもいい、自分の言葉で、感情で、そんな女のことを塗り潰せと言わんばかりに。
キンーーー
黙らせようと無意識下で発動した魔法だった。それをモロに喰らった🌱はばたり、と棒切れみたくその場に倒れ込む。
「………………は?おい…🌱、🌱……?」
意図せず暴発した魔法。受け身も取らず床の上に転がる🌱に駆け寄り抱き起こす。膨大な魔力は瞬く間に🌱の脳の回路を駆け巡り、焼け焦がした。鼻血を垂らし、口の端にはあぶくが吹いている。ひらり、舞った写真の中では最愛の女が変わらない眩いばかりの笑みを湛えていた。