ドライヤー「じっとしてろ」
冷たい声とともに、温かい風が髪を撫でる。
お風呂上がりの濡れた髪が少しずつ乾いていく感覚に目を閉じながら、そっと圭くんの顔を盗み見た。
「……そんなに見られるとやりづらいんだけど」
「だって、圭くんが髪乾かしてくれるとか思わなかったから」
「お前がダラダラしてたせいだろ。こっちは早く寝たいんだよ」
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、ドライヤーを持つ圭の手は意外なほど優しい。根元から毛先へと、指先がゆっくりと梳くように動くたびに、心地よさに思わず肩の力が抜ける。
「…眠くなってきた」
「寝るのは乾いてからにしろ」
「圭くんが乾かすの上手いから」
「バカかよ」
そう言いつつも、圭くんの動きがほんの少しだけ慎重になった気がする。髪が絡まらないように気をつけながら、丁寧に風を当ててくれる。
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