真っ赤に染まった空の下、どこか懐かしい匂いが漂っていた。
夕方の商店街には、揚げ物の匂い、花屋の水を打った香り、パン屋の甘い焼き立ての気配が混ざって流れてくる。
その中を、ふたりは並んで歩いていた。
左手にはスーパーのビニール袋。
右手は、しっかりと互いの掌に繋がれている。
「斉木さん、豆腐って絹ごし派?木綿派?」
鳥束が何気なく問いかけると、隣を歩く斉木は一瞬だけ視線を横に流した。
「強いて言うなら食べていて崩れにくい木綿だ」
「じゃあ今日の晩ごはん麻婆豆腐なんで楽しみにしてて欲しいっス!でも、冷奴は絹がうまいんだよなー……ってあれ?聞いてます!?」
「聞いてる。そもそもよくそんなに豆腐で話を広げられるな」
「いやいや、こういう他愛もない会話が恋人同士の醍醐味っスよ?っていうか、オレたち一緒にご飯の買い出しとかしてんの、めちゃくちゃラブラブじゃないっスか〜♡」
2019