闇の届かぬ場所 雨が降りしきっていた。
多くの兵が斃れた戦場に。悲しみにくれる天の涙のごとく。
まだ日暮れ前だというのに、厚い雲に覆われた空はすでに暗い。
生き延びた者らの体に雨粒が沁みわたってゆく。
疲弊した彼らの喉を潤し、甲冑の血を洗い流す。
雨は骸と化した兵らの上にも哀しく降り注ぐ。血と水は混じり、土のくぼみに澱み、やがて小さな川となって流れ出てゆく。雨霧のなか、鉄と錆の臭いが充満している。
徐々に日が暮れはじめた。ぽわん、ぽわんと、あちこちに灯るやわらかな焔の玉がある。
鬼火だ。
命尽きた兵らの霊魂なのだろうか。不思議と小雨の中でも消えずに漂っている。おのれの亡骸を偲ぶが如く、中空をしばしさまよって、やがては闇に消えてゆく。冷たい肉体の中にもう戻れぬことを悟ったのだろう。
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