もなか「⋯帰ったぞ」
珍しく帰りが遅くなった坂ノ上は、魂が抜けてしまったような顔でリビングのドアを開けた。空気を読まない、人の都合すら考えない取引先の接待など、ぷんぷんに怒った伴のお迎えがあれば直ぐ様忘れると期待していたがそんなものあるはずがなく。
今夜は早く帰るから夕飯は外で食べようと、今朝伴と約束して出てきたのだ。急な接待で連絡もまともに出来ず、伴からの返信は二つ返事のスタンプのみ。坂ノ上にとっては、最悪の1日だった。
大きなソファで寝っ転がってスマホをいじっていた伴は目線をリビングの扉に向けることもなく少しの無言の後「⋯おかえんなさい」と一言。
取引先への手土産とは別に、伴へのお詫びにと買ってきた和菓子の手提げをダイニングテーブルへ置いてソファに近づく。
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