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正体を無くしかけた猪に、のしかかられている。その猪の口からは尋常ではない濃さの酒気が漂っている。
「ふぇりくす」
酒でガサついた声に、舌足らずな口調というのが非常にアンバランスで滑稽だ。だがそれを揶揄う余裕はあまり無い。
「……なんだ」
「なぜここに?」
「……お前が俺を呼んだと聞いたが」
「よべばきてくれるのか」
「……シルヴァン。こいつはどれだけ飲んだんだ」
まともに会話が出来ると思えない。これでは、ほとんど獣に等しいような狂戦士の如く振る舞っていた頃の方がまだ人語を喋っていたようにさえ思う。
「おい。むしするなふぇりくす」
重い。体重が遠慮なくかけられる。何がしたいんだこいつは。
修道院の食堂で夕食を取っていたらシルヴァンに連行された。何やら騒いでいることは視界の端に捉えていたが、さして興味もない。しかし、ディミトリが自分を呼んでいるらしい。奴に何かあったのであれば話は別だ。そう思って渋々従うと、先生の静止も聞かずにふらふらと立ち上がったディミトリが覆いかぶさってきた。
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