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美しい金色の毛並みを持つ大きな獣が、愛玩動物よろしく膝の上で愛想を振りまいている。
これがかつて死に場所を求めて彷徨っていた猪だとは、もはや誰が信じられようか。
「こんなに甘やかされてしまったら駄目になってしまうな……」
木々の蕾が膨らみ、春の訪れが近づく孤月の頃。雪解けを促す陽射しが高窓から降り注ぐ部屋の中、くぐもった声が自分の腹に向けて呟かれた。
謂れの無い非難を受けている。なにしろ、この男は自ら進んで膝の上に頭を乗せて来たのだから。
「おい。勝手に人の膝の上にまとわりついたのはお前だろうが」
長椅子にだらしなくその長い脚を投げ出し、先ほどまで金糸に覆われた頭をごろごろと摺り寄せ、脚を撫で摩りながら腿が固いなどと勝手な文句を言って寝心地の良い位置を探していた。
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