たくたまデート回(本文) 待ち合わせ時間ぴったりに、彼女はやってきた。
スポーティな黒のキャップを被って、大柄の黒縁眼鏡を伊達でかけている。艶やかな黒髪はいつものストレートではなく、ゆるくサイドで三つ編みにされていた。普段と印象はだいぶ変わるものの、変装というには少し物足りない。俺と彼女の関係は報道によってすでに世間に知られてしまっているのだからこそこそ隠れるつもりはない、ということだろう。
「さあ、行きましょうか」
そう言って彼女は俺の左腕に手を回す。ふわりと花のような香りが漂って、どきりとした。驚いて離れようとして、いやいや俺たちは恋人同士なのだと思い直す。付き合っていれば腕を組んで歩くなど自然なことだ。
ドッとうるさい心臓の音は、左側の彼女には丸聞こえだろう。素知らぬ顔の下、きっと内心はかなり面白がられているのではないか。そう思うと恥ずかしくて、無性に居心地が悪い。
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