リビングのソファから、この家の建っている丘から見下ろした街の風景がテラス越しに見える。ここで開いていたカフェの売りだったのだろうその風景を気に入ってこの物件を買ったくらいには、お気に入りの場所だ。
ただ、元々俺のお気に入りの場所は別にあった。先ほども言ったがこの家にはテラスがある。風景を見るならテラスのほうがよく見える――そのはずだったのだが。
いつの頃からかソファから見えるテラスの一角、元々俺が定位置にしていた場所に小さな頭が見えることに安心感を抱くようになった。
雨風に晒されても平気なラタンのチェアに寝そべり、隣のテーブルに積み上げた本を読んでいく。足を組み替えたり、寝返りを打ったり。
動かなくなったのを見たら窓を開けてブランケットをかけにいくのはお約束の風景で。その度に陽に照らされた彼女の頭をそっと撫でる時間が好きになっていった。
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