その日、僕はお気に入りの木の下でいつものように本を読んでいた。天気の良い日はこの木の下で本を読むのが僕の楽しみだった。
時折通り過ぎる暖かな風を感じながら本を読み進めていると、前方に人の気配を感じたので顔を上げた。
そこには大柄の知らないおじさんが立っていた。僕を見て何やら嬉しそうに微笑んでいる。しかし、その目には全く光が宿っていなかった。明らかに普通ではないその人に、僕は何故か恐怖心よりも憐憫の情を抱いた。
「……あの、何か?」
「見つけた」
おじさんはそう言ってこちらへと歩み寄る。そして僕の腕を掴むとそのまま引きずるように歩き出した。僕を何処かへ連れて行くつもりなのだろう。おじさんの腕を振り払おうと抵抗してみたけれど彼の力はとてつもなく強く、僕が何をしようと歩調も、腕を掴む力も、そして表情さえも全く変わることがなかった。
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