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    ゆめじ

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    ゆめじ

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    漫画が描けないので文にしました。
    だが文才などない(堂々)

    風邪を引いたグの話。
    魔王も邪神もいない世界で平和に将軍してる両片想いグホです。
    「グは薬が効きづらい体質」「ホが薬学にも精通してる」という捏造設定付与。

    グレイグは数十年ぶりの風邪に苦しめられていた。
    熱に浮かされ、記憶が無秩序に入り混じった夢を見る。まるで走馬灯のようだった。それを見ているうちにグレイグは今がいつで、ここが何処なのかわからなくなっていった。

    夢を見ながら、部屋のドアが開く音を聞いた。
    誰かが部屋の中へ入って来てベッド脇に立つ。そして冷たい手が顔に触れてきた。心配そうな、愛おしむような優しい手の感触。
    目の前を忙しく流れていた記憶の夢は、手が触れてきた途端に流れるのをやめ、母の姿を見せてきた。
    ああ、そうだ。熱を出すと母がよくこんな風に撫でてくれたものだ。
    譫言のように、その手の主へ呼びかける。

    「母上……?」
    「重症だな」

    帰ってきた声に、一気に夢から覚める感覚がした。
    目を開けると、そこにいたのは深刻な顔をしたホメロスだった。

    「すまん……変な事を言った」
    「気にするな。熱がある時は大抵そんなものだ」

    きっと揶揄われると思っていたのにホメロスの返答は意外なもので少々拍子抜けする。
    ホメロスはグレイグの発言に大した興味はないようで、医師が処方した薬を確認していた。
    普通の風邪薬。成人に与える普通の量。医師の処方に間違いはないのだが、見たところグレイグにはほとんど効いていない。
    以前、グレイグが魔物の毒に侵された時は常人の倍の解毒薬が必要だった。その時は強い毒だったからだろうと思っていたが、今回のこの状態を見るに、おそらくグレイグは薬の効きにくい体質なのだろう。頑強すぎて滅多に薬を必要としないために今の今まで気付かなかった。

    「グレイグ、お前はどうやら薬の効きにくい体質らしい。薬を調合し直してくるから待っていろ」

    そう言って背を向けたホメロスの手を、グレイグは思わず掴んで引き止めてしまった。

    グレイグは夢の中で身に覚えのない記憶を見た。
    ホメロスに裏切られ、敵対し、最後はこの手で彼を斬った。別の記憶では魔物に憑依された王にホメロスが斬られ、自分の目の前で消えていった。
    その光景を知らないはずなのに知っている気がして気味が悪く、何よりホメロスを失うという点がとてつもなく恐ろしかった。
    目を覚ますと同時にそれらについては忘れ去っていたが、踵を返すホメロスを見て置いていかれるような錯覚を起こした瞬間に甦り、彼を失う恐怖も思い出してしまった。それでホメロスがこの部屋を出たら、もう二度と戻って来ないのではないかという不安と寂しさに襲われたのだ。

    突然手を掴まれたホメロスが驚いて振り返ると、グレイグは申し訳なさそうな顔をして緩々とその手を放した。

    「……ええと、急に寂しくなってしまって、つい……」

    今度こそ馬鹿にされそうだ、と思っていると、ホメロスは前髪を指で払い、人間が病に罹ると消極的な感情を抱きやすくなってしまう仕組みについて饒舌に解説してくれた。だが、熱でぼうっとした頭にはホメロスの話は全く入って来なかった。
    解説が一通り終わり、部屋を出るホメロスをグレイグが再び引き留める。

    「今度は何だ」
    「その、できれば苦くない薬を……」
    「善処する」

    グレイグが言い終わらないうちにホメロスの素っ気ない返事とともに扉が閉められた。


    ホメロスから渡された薬は先程の要望を聞いていたとは思えないくらい苦かった。しかし飲まないわけにもいかないので、なるべく味を感じないように一気に飲み下す。グレイグが薬を飲んだのを見届けるとホメロスはさっさと自室へ戻ってしまった。
    私服であることからも彼が非番であるのは明らかで、それならばもう少し傍に居てくれてもいいだろうに、とグレイグが思っていると、ホメロスは数冊の本を手に戻ってきた。そして徐にベッド端へ腰かけ、持ってきた本を読み始める。
    その様子をグレイグがきょとんとした顔で見つめていると、視線に気づいたのか、ホメロスは横目でグレイグを見遣り無愛想に言う。

    「我が友が寂しいなどと吐かすのでな」

    その言葉を聞いてホメロスの意図を理解したグレイグはみるみる嬉しそうな顔になる。

    「ありがとう、ホメロス」
    「フン、お前のせいでせっかくの休暇が台無しだ」

    文句とは裏腹に、ホメロスは満更でもなさそうに組んだ足を揺らしていた。
    どれだけ面倒そうな態度でも、愛想のない事を言っていても、彼の行動にはいつも愛が感じられる。自他共に厳しく、時には冷酷とさえ評されてしまうホメロスだが、彼の優しさや温かさをグレイグは誰よりも知っていた。幼い頃からその優しさに触れてきたからか、グレイグにとってホメロスは友以上の、家族以上の愛しい存在となっていた。


    微睡みを繰り返している間に薬が効いたようで、あれだけ苦しんだ風邪の症状はすっかり和らいでいた。薬の効きにくい体であるにも関わらず、比較的速く効果の出る薬を調合してきたホメロスの才幹にグレイグは改めて感心する。
    本を読み終えたホメロスは「せめて枕にでもなってもらわねば割に合わんな」と、先程からグレイグの体を枕にして眠っている。触れている箇所がホメロスから伝わる体温でじんわりと温かい。愛しい人の温もりを感じてグレイグは幸福感に包まれた。

    柔らかい陽光がさす部屋の中には、ホメロスの穏やかな寝息だけが静かに響いている。
    グレイグはベッドに垂れたホメロスの長い髪に指を絡めながら、再びやってきた眠気に抗わずゆっくりと目を閉じた。
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