無題絵本を読んだ。歌を聴いた。映画を見た。ミュージカルの話をしたら紫罗兰に劇場に連れて行かれた。昔から何のためにこんなことをするのか分からずに、それでも胸が高鳴る時間は好きだった。あいつは人間のつくるものが好きだと言った。手と手をとって、積み上げて、塊となって、何かを残すその姿が好きだと。分かるような気もしたけど、それで俺と遊ぶ時間が減るのは嫌だった。俺たちからあいつを奪う人間が嫌いだった。
その日は夢を見た。店にくる子どもに、御伽噺を聞かされ続けたせいだ。たくさんの人間が着飾って笑って、くるくると踊る。舞う布たちが花みたいで、次の朝の気分は良かった。最後は俺の目線で、誰かの手を握っていた気がするけど思い出せない。なんだかフワフワした気持ちで、花束にリボンをかけた。昼休みに、紫苑の花を眺めていたら紫陽花に声をかけられた。最近よく見るなあと思ったら、どうやら紫苑のお客さんらしい。
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