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    hanahune

    成人向けらくがき、小説メモ置き場
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    hanahune

    MEMO雑伊もしくは三忍数
    どう、と空が啼いて。灰色を見上げると数拍おいてから大きなかたまりのような風がぶつかってきた。体を竦めてそれをやり過ごす。保健委員会の仲間たちが年末の大掃除をしている医務室に体を滑り込ませると細く鋭い風が入り込んでしまって一年生たちが持っていた籠から乾燥した葉が飛んでまった。謝りながら床のあちこちに散らばったそれを拾って籠に入れてやると、左近から湯飲みが差し出された。受け取ると指先にじわりと熱が伝わってくる。礼を言ってから口をつけた。甘酒のやさしい甘味と温かさ、香ばしいかおり。寒さでかたまった体がほぐされていく。ほう、と息をついて落ち着くと、彼の人の姿を思い浮かべた。しばらく会えないと言われたのはこの医務室で、抱き込まれた腕の中はこの湯飲みよりもあたたかだった。雪が深い間は戦はないだろうけれど、きっと春に起こるであろうそれに向けての情報を集める為に忙しくされているのだろう。今ごろ何処にいらっしゃるのだろう。この強風の中凍えてはいないだろうか。怪我などしていないだろうか。不思議だ。あちらは恐れられるほどのプロの忍でこちらはまだひよっこにもなれてない卵。年も身分も離れているというのに、親しく言葉を交わして心を触れ合わせることになったなんて、自分でも信じられない。夢のようだけど、与えられた熱は確かに身体に刻まれている。それがどうにも嬉しくてもどかしくて切ない。どうか無事でいて欲しい。厳しい忍務の中でも心穏やかになれるひと時があるといい。彼の人を案じていると、いつの間にか冷えていた手の中の湯飲みに甘酒が注がれた。意識を目の前に戻すと左近が苦笑しながら「きっとあの人なら大丈夫ですよ」と囁いてきた。「そう、だね…ありがとう」温かい湯飲みを握ってぼくも同じ様に小声で返し微笑んで見せた。
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