馴染みの店はいくつもあるが、本当にいい店というのは秘密にしておきたいものだ。俺にとってはこの店がそう。繁華街から離れていて、場所が分かりにくく、一見しただけでは店があることにさえ気がつかない。内装は流麗で、料理は美味しく、食器も上品。プライバシーは完璧に守られ、接客にも文句のつけどころがない。特別な日に特別な人と来たい店だ。例えば両親の結婚記念日とか、弟の受験の合格祝いとか。そう、つまり俺は、この店に家族以外の人間を連れてきたことがない。
炭治郎は完全に緊張してしまい、椅子に座ったままカチコチに固まっている。
「おっ…俺、場違いじゃないですかね…!」
「そんなことはない!楽にしてくれ!」
笑ったりしては失礼だろうが、縮こまっている様子が面白くてこっそり笑ってしまった。
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