Recent Search

    kotobuki_enst

    文字ばっかり。絵はTwitterの方にあげます。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 47

    kotobuki_enst

    DONEこの前の人魚ひよあんの美味しいとこだけ書いたやつ。海蛇をうまいことだまくらかすなり丸め込むなどして地上に逃げ帰ったあんずちゃん。成功したとは言ってません。またもや突発工事なので色々と大目に見てください。ネタは熱いうちに書け。
    帰巣 なんとなく避けていた。それを忌む男はもう隣にはいないというのに。

     白身魚をフライにしてタルタルソースをかけて、たっぷりのレタスも添えたフィッシュサンド。それから赤と緑のコントラストが映えるBLTサンド。あまり悠長にしている時間はないというのに、昼食を選ぶために棚に伸ばした右手は二つのサンドイッチの間を何度も往復していた。
     スタミナの付きそうながっつりしたメニューがいいなと思っていた。今日はこれから面談が二件。復職はそう簡単じゃなかった。こういうときは照り焼きチキンのサンドがあると都合がいいのだけど、生憎今日は売り切れているようだった。
     背後からごほんと大きな咳払いが聞こえる。控えめに振り向けば、スーツ姿の年配の男性がじっとりとこちらを見ていた。サンドイッチコーナーを独占しすぎてしまったらしい。小さく頭を下げて、もう一瞬だけ悩んだ末にフィッシュサンドを手に取った。レジの横に並んでいたミネラルウォーターも一緒に手に取って会計を済ませる。私ももういい加減立ち直り、そして忘れなくてはならない。あの男の束縛も、あの世界の抑圧も。
    2384

    kotobuki_enst

    DONE偶像ちゃんの人魚姫パロのひよあん。突発工事。なにかと注意。世界で一番日和姫が自分の腕の中に飛び込んできた女の子を殊勝に家に返してやるわけがないんだよなあ。
    泡と消える 目が覚めると目の前にそれは美しい半裸の男が寝転んでこちらをじっと見つめていたものだから、あんずはひどく驚いて小さく悲鳴を上げてしまった。ベッドの上で縮こまり驚きを通り越して怯えの交じった表情を見せるあんずにも男は特段気を悪くした様子はなく、微笑みながら上体を起こした。身に付けた宝飾品が揺れてしゃらりと音を立てる。

    「ああ良かった、目を覚ましたね」

     男はベッドに手をついて起き上がり、恋人同士の甘い寝起きのようにあんずの髪に指を差し込んで二、三度梳いてみせた。あんずが横になったまま膝を抱えて、かけられていたシーツで顔の半分を覆ってしまった理由は見知らぬ美男子が隣で寝ていたからというだけではない。上質なホテルのスウィートルームのような部屋の中はまるで宙を泳ぐように色とりどりの美しい魚たちが好き勝手に漂っているし、目の前の美男子もまた腰から下が魚のようなかたちをしていたからだ。半魚人、人魚と言うべきか。本来二つの脚があるはずの場所は真珠色の鱗で覆われ、足先には絹の衣のような翠玉色の尾びれが生えている。
    2706

    kotobuki_enst

    DONEなんとデートをしていたらしいひよあん。あんずちゃんの察しが悪いぽけぽけした雰囲気が大好きですがそれと同じくらい真意に気づいてしまったときの恐ろしさも好きです。
    またの機会に 美人の真顔は怖い、なんて言葉があるけれど、怒ってる美人は眉を釣り上げていようが無表情だろうが等しく恐ろしいのだと知った。撮影用のカメラを前にしたように穏やかな笑みを見せるその人は、不機嫌と不満を隠そうともしなかった。

    「……ぬるくなっちゃいますよ」

     何を語るでもなくただ批難を視線に乗せて浴びせられるのに耐えきれず先に口を開いた。巴さんの手に収まるプラスチックのカップはひどく汗をかいてその手を濡らしている。ベンチの下は木陰になっているけれど、それだけでは暑さは凌げない。何もかもを溶かすような陽射しはカフェラテに混ざる氷だってすぐに溶かしてしまうだろう。

    「……そうだね、飲み物に罪はないからね」

     巴さんはようやく緑色のストローに口をつけて中身を吸い上げた。だがすぐに「薄いね」などと言って口を離してしまう。味が薄いのは時間を置きすぎて氷が解けてしまったからだろうに。それとは対照的に私の手元のキャラメルラテは巴さんの視線から逃げるために頼りすぎてほとんど残っていない。カップの汗が一滴垂れて、おろしたてのスカートの色を変えた。
    3671