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    kotobuki_enst

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    kotobuki_enst

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    Twitterにも載せたけど一応アーカイブとしてこちらにも。

    ##スバあん
    ##英あん
    ##いずあん
    ##ひよあん

    付き合いたいとか思ってたわけじゃないけどいざ他の男と付き合い始めると急に惜しくなっちゃう男(手遅れ)さよなら特別かわいい彼女だけが見たかった務め名は愛を表すさよなら特別

     好きな女の子に彼氏が出来てしまった。絶対に誰のものにもならないと思っていた女の子が、顔も名前も知らない男のものになってしまった。アイドルとして自分が彼女の中のいちばんの輝きであればいいと思っていたのに、彼女にとっては自分は二番目以降の存在だったらしい。

    「あんずが彼氏作ると思わなかった。恋愛よりも仕事が大事って言ってたから」
    「あはは、そうだね。私もあんまり、仕事以外のものに時間を割くのは勿体ないなってずっと思ってたんだけど」
     あんずははにかみながら笑った。頬が明るいピンク色に染まって、いつも以上にかわいいと思ってしまったのが癪だった。
    「あの人といると、仕事ももっと頑張ろうって思えるの。誰かと付き合うのって限られた時間を引き算していくものだと思ってたんだけど、そうじゃなかったみたい」
     仕事熱心で働き詰めなあんず。いつも俺たちのためにその身を削っていたあんず。彼女が選んだ男は、あんずから差し引くのではなく、あんずを更に高めることができるらしい。
    「……ねえ、それ、俺じゃだめだったの?」
     言ってすぐに後悔した。そのときのあんずは、これまで見てきた彼女の表情の中でいちばん困った顔をしていたから。
    「スバルくんからも、いつもとっても元気をもらってるよ」
    「……そっか」
     そう言うしかなかった。所詮俺は、『プロデューサー』にとっての『アイドル』にしかなれなかったのだから。



    かわいい彼女だけが見たかった

    「今、お付き合いしている人がいるんですけど」
     そう切り出した彼女の口調は、実にあっさりとしたものだった。昨日の夕食のメニューを語るような、どうってことないことだと言わんばかりに。近頃顔を合わせる機会の減った彼女の近況が聞きたくて話を振ったが、あまりに想定外な返答だった。
    「……え、恋人ができたの?」
    「はい、一月くらい前に」
    「もっと早く報告してほしかったな……」
     仕事ばかりにかまける彼女が、それでも恋愛にほのかな憧れを抱いていることは知っていた。むかし彼女と『恋バナ』で盛り上がった際には、いつかあんずちゃんが結婚するときには盛大な披露宴を開こうだなんて口約束を交わしたものだ。世間一般の少女がそれに夢中になる年頃に、彼女は周りの男たちの誰の手も取ることはなかったが。
    「……プロデューサー業を疎かにはしませんので……」
    「ああいや、そういう心配をしているんじゃないよ。単に可愛い後輩の好事を祝いたかっただけだから」
     だが口に出した言葉とは相反して、頭の中ではさっさと別れないかなと思っていた。別に理由はなんだっていいから、できるだけあんずちゃんが悲しまないように早急に破局してほしかった。恋人ができたことを祝う時間と労力があるなら、それは彼女が別れた際に彼女を慰め、笑顔にするために使いたかった。
    「そっか……、それはESをあげて祝福しなければね」
     何か欲しいものはない?マンションとか。そう続ければ、彼女は顔を青くしながらブンブンと首を振った。必死な様子の彼女は、いつだって可愛らしい。可愛らしいがその瞬間、まだ自分も知らないような様々な彼女を知る権利を持つ男の存在が脳裏をちらついた。
     真っ白なウェディングドレスはかわいい彼女をさらに可愛く彩ってくれるだろうが、別に他の男に永遠を誓う彼女が見たいわけじゃないのだ。



    務め

     泉がその話を人づてに聞いた時、「へえ、おめでたいじゃん」と返した。
     嘘である。当人は何もめでたいと思っていないし、彼氏ができた時点で写真と事細かなプロフィールを添えて自分に真っ先に報告してこなかったあんずに心底腹を立てていた。
     泉にとってあんずはかわいい『いもうと』である。妹相応に憎たらしい部分も小生意気な部分もたくさんあるけれど、それ以上にあの垢抜けない芋くさい笑顔を可愛らしいと思っていた。だからこそもしあんずが互いに愛し合い、寄り添い合う男を求めるのならば、あんずに相応しい男をきっちり見定めるのが『お兄ちゃん』の務めだと思っていた。

     ホールハンズを経由してあんずをネチネチと問い詰めた結果、簡単なプロフィールと顔写真を入手することができた。ESとも懇意にしている出版社でグラビアカメラマンを目指し下積み生活を送る、泉よりひとつ年上の男だった。顔は下の中、スタイルは下の上、経済力と将来性は甘く見ても下の中だろう。あんず曰く優しく自分のことをよく気にかけてくれるらしいが、そんな男は男は夢ノ咲にだってごまんといただろうに。
     男に対して抱いた感想をあんずにそのまま伝えた上で、重ねてこんな男のどこがいいのかと問う。泉は自分よりも劣ると判断した男に、かわいいあんずを任せる気はさらさらなかった。
     対する返答は「泉さんより性格がいいところです」であった。このクソガキが。



    名は愛を表す

     彼女がいつもより三割り増しの優しい声でその男の名を口にした時。その男の名を、ファーストネームを、下の名前を、舌の上で甘く転がした時。言いようのない不快感が胸のあたりをごろりと撫ぜていった。

     彼女はぼくのことを「巴さん」と呼ぶ。凪砂くんのことは乱さんと、ジュンくんやスバルくんのことは、それぞれ漣くん、スバルくんと。英智くんやつむぎくんのことは、天祥院先輩、青葉先輩と呼んでいる。
     まあぼくは彼女と同じ学び舎で高校生活を過ごしたわけではないので、ぼくを先輩と呼ばなかったことに疑問があったわけじゃなかった。けれどぼくたちが彼女の大切なアイドルたちとはまるで別物だと区別されているようで、不満を抱かなかったといえば嘘になる。
     抱えた思いをそのまま胸にしまっておくことが困難なたちなので、その不満はそのまま彼女にぶつけてしまった。「先輩」と呼ばないのならば、下の名前で呼んでみて欲しいと。だが彼女は眉を下げながら微笑んで謝罪の言葉と、ぼくの意に添えない理由を語った。
    「下の名前で呼んだり、先輩って呼んだりするの、最近ちょっと怒られちゃったんです。学生気分が抜けてないって。プロデューサーとしての自覚に欠けるって」
     その言葉の通り彼女はそれ以降、親しかった友人や先輩のことを皆苗字で呼ぶようになった。不満を垂れるアイドルは多かったが彼女の意志は固かったらしく、段々と皆が新しい呼称に慣れていった。結局ぼくの呼び方も変わらなかったが、抱いていた不公平感は解消されたのでそれで満足だった。
     だというのに。先輩も後輩も、夢ノ咲生もそれ以外も、アイドルもプロデューサーも飛び越えて彼女の特別になってしまった男が現れてしまった。ぼくは自分の価値を貶められることが、何より嫌いなのに。
     「日和さん」などと呼ばなくていいから、その男も、ぼくたちと同じところまで落としてくれないだろうか。
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    kotobuki_enst

    DONE人魚茨あんのBSS。映像だったらPG12くらいになってそうな程度の痛い描写があります。
    全然筆が進まなくてヒィヒィ言いながらどうにか捏ね回しました。耐えられなくなったら下げます。スランプかなと思ったけれどカニはスラスラ書けたから困難に対して成す術なく敗北する茨が解釈違いだっただけかもしれない。この茨は人生で物事が上手くいかなかったの初めてなのかもしれないね。
    不可逆 凪いだその様を好んでいた。口数は少なく、その顔が表情を形作ることは滅多にない。ただ静かに自分の後ろを追い、命じたことは従順にこなし、時たまに綻ぶ海底と同じ温度の瞳を愛しく思っていた。名実ともに自分のものであるはずだった。命尽きるまでこの女が傍らにいるのだと、信じて疑わなかった。





     机の上にぽつねんと置かれた、藻のこんもりと盛られた木製のボウルを見て思わず舌打ちが漏れる。
     研究に必要な草や藻の類を収集してくるのは彼女の役目だ。今日も朝早くに数種類を採取してくるように指示を出していたが、指示された作業だけをこなせば自分の仕事は終わりだろうとでも言いたげな態度はいただけない。それが終われば雑務やら何やら頼みたいことも教え込みたいことも尽きないのだから、自分の所へ戻って次は何をするべきかと伺って然るべきだろう。
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    kotobuki_enst

    DONE膝枕する英あん。眠れないとき、眠る気になれないときに眠りにつくのが少しだけ楽しく思えるようなおまじないの話です。まあ英智はそう簡単に眠ったりはしないんですが。ちょっとセンチメンタルなので合いそうな方だけどうぞ。


    「あんずの膝は俺の膝なんだけど」
    「凛月くんだけの膝ではないようだよ」
    「あんずの膝の一番の上客は俺だよ」
    「凛月くんのためを想って起きてあげたんだけどなあ」
    眠れないときのおまじない ほんの一瞬、持ってきた鞄から企画書を取り出そうと背を向けていた。振り返った時にはつい先ほどまでそこに立っていた人の姿はなく、けたたましい警告音が鳴り響いていた。

    「天祥院先輩」

     先輩は消えてなどはいなかった。専用の大きなデスクの向こう側で片膝をついてしゃがみ込んでいた。左手はシャツの胸元をきつく握りしめている。おそらくは発作だ。先輩のこの姿を目にするのは初めてではないけれど、長らく見ていなかった光景だった。
     鞄を放って慌てて駆け寄り目線を合わせる。呼吸が荒い。腕に巻いたスマートウォッチのような体調管理機に表示された数値がぐんぐんと下がっている。右手は床についた私の腕を握り締め、ギリギリと容赦のない力が込められた。
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