彼の荒野にて「どうぞ、おはいり。なにもないところだけれども」
彼は非常に恐縮しながら、手をとって私を迎えいれた。
私は、「おかまいなく」と返事をするのに精一杯で、きょろきょろと身を乗り出して暴れまわる目玉を止めることは出来なかった。
あなたの部屋はシンプルで、住みわけがきちんとしてそうだったのに。漠然と持っていた先入観を、慌てて子供服の尻ポケットに詰め込んだが、しっかりと見咎められていたらしい。
「安心して、ランゴリアーズは出ないよ」
と、嗤われた。
色はないのに音はある。匂いはないのに、ただ冷たい。遠くでごうごうと風の吹き荒ぶ音が聞こえる、一面の岩場。
降谷の夢の中は、モノクロームの荒野があるだけだった。
ひとつきほど前、組織壊滅後から専属で研究を委せていた機関の医者に呼び出された。
10015