シネマとポーク 中等部のころに何回か家には行った。彼の母親は忙しい人でなかなか会えなかったけれど、会えば優しい声を掛けてくれた。こんなふうに自然と会話ができる親子もいるのだな、と驚いたものだった。
人の家に遊びに行ったり、食事をしたり、というのはしたことがなかったから、もしかしたら自分は常識から外れた振る舞いもしていたかもしれない。だけれどいつも、嫌な顔もせずに迎えてくれていた。
「座って」
「懐かしいな」
親子二人で住んでいるのにどこも片付いていて、さっぱりしている。
「お母さん、忙しいだろうに家もきれいですごいな」
「家事は結構僕がやってるけどね」
「コウジも偉いよ。ありがと」
彼がオレンジジュースを目の前に置く。すっとストローとコースターを置く仕草が慣れている人間のそれで、つい感心してしまう。
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