2021.5.31(世界禁煙デー)「めっ」
一瞬なにが起こったのかわからなかった。
まぁ冷静に状況を見てみればなんてことはない。タバコを咥えて火を点けようとしたら、ライターを持った手を突然掴んで止められたのだ。
「だめだよ、今日はもう終わり。ぼくがシャワーしている間にいったい何本吸ったのさ」
置かれた灰皿に揉み潰した吸殻は四本だ。たしかに本数は増えている。カブさんの家のリビングで、開けた窓から星空を眺めて一服していた5月の終わり。日中はずいぶんと暑くなり始めたが、夜は吹き抜ける風が涼しく心地良い。風は湿っぽい草木の匂いと、エンジンシティ独特の石灰で沸かした蒸気の匂い。明るい星空のどこかからは、クワガノンやヌケニンあたりの鳴き声と羽音がメロディみたいに聞こえてくる。そんな、穏やかで満ち足りた初夏の夜。
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