「実際のところ何があったのか、もう聞かせてくれても良いんじゃあないかと思うんだが」
ホームズが前触れなく口にした言葉の意味するところを掴みそこねて、私はパイプを持つ手を止めた。
私の向かい側に、いつもの肘掛け椅子に座ったホームズが居て、彼もまたパイプを手にしている。灰色の瞳は何かを咎めるように鋭く細められ、私は何のおぼえもないのに、なにがしかの罪を隠しているような居心地の悪さを感じた。
何の話だと問う前に、ホームズが左の手でトンとサイドテーブルの上を叩く。雑然と積み上げられたさまざまな本の一番上には、分厚い紙の束が載っており、ホームズの長い指が繰り返し叩いて示しているのはその紙の束だった。私にも見覚えのある束で、それは先日書き上げたばかりの新しい原稿だ。まだ世に出すつもりはなく、けれど書き上げたときの倣いとして、試しに読んでみてほしいと彼に頼んだものだった。
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