『糸を縒る』 2032年モストロラウンジ珊瑚の海店、海上テラス。新しく作られたこの店舗は、海底から海中、海上までの3階建てになっていて。数時間前まではグランドフロアもとい海底と海中はおもに人魚が。海上は専用の船で訪れた人間や獣人、妖精などで賑わっていた。
「誕生日おめでと」
「今年もお会いできて嬉しいです」
「……誕生日くらいは、ね」
学生時代よりも大人びた後輩は、質の柔らかそうなシルバーブロンドをオールバックに撫でつけ、三つ揃えのスーツを着こなしていたが、微笑んだ表情には昔の面影が残っていて、イデアは表情を綻ばせた。
「さみしい誕生日ですな。今日くらいは仕事休めばいいのに」
「お生憎様、独り身ですから」
「祝ってくれるひとは、いっぱいいるでしょ」
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