運がいい男(自認) 2025年8月13日午後8時19分、代表合宿中の牛島若利が大浴場から自室に戻ると、同室者である影山飛雄が牛島のベッドの上でタブレットを見つめていた。それ自体は特に珍しいことでもなかったが、常の彼とは違う箇所があったため、牛島は思わずといったふうに足を止めた。具体的に言うと、影山の艶やかな黒髪には赤い大きなリボンがついており、更に首にも同色の長いリボンが結ばれていた。首に巻かれたリボンは、結び目から腰元まで垂れていた。見慣れない光景に、牛島は戸惑った。
「あ、おかえりなさい、牛島さん」
牛島に気がついた影山が、タブレットから顔を上げた。牛島はそこでようやく、影山の頭につけられたリボンがカチューシャであることに気がついた。頭頂部に結び目がある、童話のヒロインがつけているようなものだ。見慣れぬ装飾品をしばし見つめていると、影山は不思議そうに首を傾げたあと「あ!」と声を上げて、その場に正座をした。
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