たそがれモラトリアム「おはようございます、□□□さん」
「おはようございます」
「ビッ!」
呼ばれた名前に自然に反応できるようになったのは、いつからだっただろう。少なくとも、このマンションに越してきたころには、できるようになっていた筈だ。
「――え! 今の、ロナ戦のロナルド様!?」
「そうそう、すっかりおじいちゃんだけどね」
残念だなぁ、お嬢さん方。おじいちゃんだけど、まだまだ耳は聞こえてるんだぜ。
何でもないような顔でコンシェルジュの前を通り過ぎ、コロコロと隣でキャスターを転がしていたメビヤツの視線に苦笑を返して、しぃ、と人差し指を立てて見せる。ロナ戦は先日何度目かのリメイクを受け映画化され、人気の若手俳優が演じたことで再度注目を浴びていた。
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