238話前後「いい加減にしろ」
床に這いつくばりながら描き殴るようにデザインを起こしていく三ツ谷を大寿は睨みつけるように見ていた。
今にも倒れそうなほど憔悴しているはずなのに、描くことを止めない三ツ谷をどれほどのものがそうさせるのか、検討はついていながらも大寿にはただ見ているしかなく、歯痒い思いでいっぱいだった。
「もう少し……もう少しだから……」
大寿に対してそう言ったのか、それともただの独り言なのか、または先に見える誰かに向けてなのか、三ツ谷は顔も上げずに鉛筆を握り、線を引いていく。
「たいじゅくん……」
その時、三ツ谷の下の妹のか細い声がすぐ傍から聞こえて、大寿はハッとして下を向く。
心細げに大寿のズボンを小さな手がキュッと握る。兄のこんな姿を見るのは初めてなんだろう。いつも妹たちには笑顔を絶やさない優しく頼りになる兄だった。
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