確かに綺麗な月夜だった。
「月が綺麗だな!」
な?と振り返りながら同意を求める熱斗の言葉を、聞こえないふりをした。
「何か言ったか?」
意味は知っていた。
しかし、この隣の無邪気な少年がそんな大切な意味を込めて言ったとは到底思えない。
純粋に綺麗なのだろう。
もし。
もしそういう意味であったら?
壊れてしまうと思った。
聞き返したその答えを耳に入れないために、目をそらすために、手元のたこ焼きを1つ熱斗の口元へ運ぶ。
「そんな事よりほら、たこ焼き食うぞ」
「お前は情緒ってもんが足りねーんだわ〜」
熱斗はそう言いながら差し出されたたこ焼きを素直に口の中に招き入れる。
あっつ。そんな事を叫びながら涙目になって慌てる熱斗を見ていた。顔がほころんでしまう。
497