邂逅 この場所は知っていたけれど、実際に畳の上に座るのは初めてで、フシが帰ってくるのを待ちながら、目の前にある畳の縁をじっと眺めていた。所在がないとは、まさにこのことを言うのだろう。
この空間に漂う少し青い香りはとても懐かしくて、あぁヤノメに帰ってきたのだなと、胸がじわりと熱くなり既に僕は泣きそうだった。
でも、本当に僕は、ここに存在しているのだろうか。まだ実感はない。
これも単なる夢で、振り返るとこの風景もフシの姿も、煙のように消えてしまうのではないかと、そう思うとはっきりと目の前を見ることもためらわれて、やはり僕はただ何もない空間と畳の縁を交互に見つめるしかなかった。
フシは台所まで何かを取りに行って、僕は一人居間の真ん中で背筋を伸ばして正座したまま、フシの帰りを待っている。
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