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    nyanpiyo_fumetu

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    nyanpiyo_fumetu

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    カハフシ現世if、短編です。もし現世でカハが復活して青木家にいたら。この前後が続くかは未定。設定も曖昧ですが、復活したてのカハが書きたかったのです。ずっとこの3人で再会を分かち合ってほしいと思っていて、この作品になりました。いつもより更に捏ねくり回ったカハの脳内。本当はもっとストレートな子だと思います。

    ##カハフシ
    ##SS

    邂逅 この場所は知っていたけれど、実際に畳の上に座るのは初めてで、フシが帰ってくるのを待ちながら、目の前にある畳の縁をじっと眺めていた。所在がないとは、まさにこのことを言うのだろう。
     この空間に漂う少し青い香りはとても懐かしくて、あぁヤノメに帰ってきたのだなと、胸がじわりと熱くなり既に僕は泣きそうだった。
     でも、本当に僕は、ここに存在しているのだろうか。まだ実感はない。
     これも単なる夢で、振り返るとこの風景もフシの姿も、煙のように消えてしまうのではないかと、そう思うとはっきりと目の前を見ることもためらわれて、やはり僕はただ何もない空間と畳の縁を交互に見つめるしかなかった。
     フシは台所まで何かを取りに行って、僕は一人居間の真ん中で背筋を伸ばして正座したまま、フシの帰りを待っている。
     恐らく十分程度のことなのに、何倍も長く感じられて胃がキリキリと締め付けられた。
     最後に見たあの時のフシの顔が、頭に浮かんでは消えていく。五百年以上経っていようと、ついさっき起きた事のように、目を瞑ればフシの瞳に映る自分の姿さえ鮮明に思い出せる。僕は、あの瞬間微笑んでいた。
     過去を思えば、フシや皆に合わせる顔がないと、ずっとそう思ってきた。
     それでも傍にいたいと願って、遠くからずっと……。
     自分の左手に意識を向けてみるが、今は何もない。動かさずとも明らかに軽い。目覚めてそのことに気づいて、一瞬僕は嬉しい気持ちになったけれど、すぐに全てアレのせいにして終わらないと、また罪の意識に苛まれた。
     ただ、跡形もなくなっていた守護団のマントが綺麗に元の通りになっているのを見た時、フシの優しさが心に沁みて、そのお陰で少しだけ前を向く気持ちになれた。
     この身体は、フシが作ったものだ。僕は元の自分の身体を知っているから分かるけれど、多分この身体はフシに出会った時の僕だ。格好もそうだし、わずかに一年か二年位の差ではあるけれど、僕には分かる。
     その真意は定かでない。また初めからやり直すという意味なのかなと、勝手に自分の中で頷いていた。
     この頃の僕は、フシのことが大好きで大事で、それ故一人勝手に奔走して泣いて後悔して……、でも、ただ素直にそれだけだった。
     物事はもっと単純で、シンプルに僕はフシのことを想っていて、その衝動にまみれた日々の幸せを噛み締めていた。
     
     やがてフシは小さなお盆に湯呑み二つを載せ帰ってくると、ストンと腰を下ろし胡座をかいて座った。
     フシの表情は柔らかいので、まだそれが心の救いだ。
    「なんだ、そんな顔して、はい、緑茶にしたよ」
    「あ、いえ、フシ……。あの、お構いなく」
    「なんだよ、久しぶり過ぎて緊張してるのか? じゃあ、ここに置いておくから」
    「いえ、まぁ、そうですね。すみません……」
     すぐ横にあった座卓にトンとお盆を降ろすと、フシはじっと湯呑みから立ち上る湯気を見つめている。僕はその横顔を見つめる。
     不意にフシがこちらを向いたので慌てて、何となく視線が泳いで、またあらぬ所を眺める。
    「そのうち慣れるさ。皆、初めはそうだったから。ヤノメ、いい所だな?」
    「あの、フシ、怒ってますよね? 私はフシに……」
     何をしたかまで口に出すのは、はばかられて言えなかった。申し訳なくて情けなくて、やはりフシの方をまともに見られず、僕は目を伏せて膝に置いた拳を握り締める。
    「おれ、元気だよ? だから大丈夫」
    「……でも、合わせる顔がありません。皆にもフシにも」
     目の端でフシを見ると少し困った顔で、何かを考えているようだったが、少し間を置いて続けた。
    「でもお前はさ、ここに帰って来たじゃないか。望まなければ生き返らせることは、できないんだぞ?」
    「確かにそれは……、そうなんですが。私は懲りずにフシの傍にいたいと思ってしまって、気づけばまた……。すみません」
     僕は結局のところ罪悪感よりも、フシにもう一度会いたいという自分勝手を捨てきれなかった。だから千載一遇の機会が訪れて、もう一度本当の意味でフシの傍で生きたいと、そう思った瞬間に僕は目を覚ましてフシを見上げていた。
    「それで、いいよ」
    「フシ、正直嬉しいです。あなたに、また会えて。こんな時が来るなんて、でもそう思ってはいけない気がして、喜べないんです、フシの言葉も」
    「うん、そうか……、まぁ、そうかもな」
     次にかけるべき言葉が、出てこない。もしもまた会えたなら、フシにかけようと考えていた言葉が沢山あったはずなのに、それ以上は何も出てこない。
    「よし、ご飯でも食べよう。お腹空かないの?」
     見かねたのか、フシの方が先に口を開いた。唐突に「ご飯」という話になって、気持ちがついていけなくて、しばらく間が空いてしまった。
     そういえば、いつもは僕の方から声をかけていた。フシは言いたくても言えない時、俯いて目を伏せて悩ましい顔をする癖があるから、そうなると僕はとりあえず意味が分からずとも、何かフシに声をかけようと必死になっていた。大概、フシには届かないのだけれど。
     そんな取り止めもない過去の画がフワフワと目の前に浮かぶと、それに囚われて心ここに在らず。なんとか意識を目の前のフシに集中する。 
    「いえ、あんまりですね、多分緊張してて。あの、本当にお構いなく、まだ生きてる心地がしません。それに、ここには長くいられません……」
     幾らフシが良いと許してくれても、五百年前のことを思い浮かべると、この家の面子の中に入るのはかなり気が引ける。
     僕がした事だけではない、僕達一族が今までにしでかしてきた事実があるのだ。
     それでも僕は自分の育った場所を否定する気にはなれず、それもあって尚更心苦しかった。
     ちょうど今は誰もいないようで、ホッとしている。
    「慣れるまでは難しいかもしれないけど……、エコもいるしさ。マーチは、お前が何で居ないんだーって言ってたんだぞ。それに、ユーキも、きっとお前に会いたいと思うし。他の皆も……、いずれ分かってくれるさ、一緒にいれば」
    「マーチさんが? それは驚きですね」
     マーチが涙ながらに叫んでいた言葉が、まだ胸に刺さっている。そして、彼女達の悲しい過去の顛末を語る、フシのあの厳しい顔も未だに忘れられない。
     それでもなお、そう言ってくれるならマーチの慈愛は底知れず深いし、だからきっとそれを見ていたフシも底抜けに優しいのかもしれない。
    「うん、エコ、おいでよ。カハク帰って来たよ」
     フシが声をかけると、襖の陰からひょこっと顔を出してエコが飛び出して来た。そうか、出辛くて陰から見守っていたのか。
     パタパタと走る勢いのまましがみつくから、勢いで畳の上に倒れ込んでしまった。
    「わぁ、エコさん、また会えましたね。良かった元気そうで……」
    「ぬ!」
     昔と変わらぬ笑顔。エコのその屈託ない笑顔を見たら、思わず涙が溢れてしまった。
    「エコさん、ごめんなさい、辛かったですね、本当に。ここで会えて、良かったです」
     エコはニコリとしながら僕の前に来ると、頭をなでなでする。その感触が本当に優しくて懐かしくて、僕はエコを抱きしめてややしばらく動けなかった。
     ずっと抱えたままで酷く固まっていた罪の意識が、ふっと解けていく感覚がした。フシやエコの笑った顔が間近に、目一杯手を伸ばさずとも、すぐに触れられる場所にある。その安堵感たるや。
     僕は喜んでもいいのだろうか、この再会を。許してほしいと願ってもいいのだろうか。
     フシの方を見ると涙で滲んではいるが、切なそうな嬉しそうな、どちらとも言えない顔をして、僕と目が合うとフフと笑った。
    「おかえり、カハク。全く、相変わらず……」
     そう言いながら、エコと僕を一緒に抱きしめる。間に埋まって顔は見えないが、背中に置いた掌はギュッと僕を捕まえていた。こんな時に申し訳ないと分かりつつ、思いがけない事に心臓が跳ね上がっていた。
     そして、フシが僕に会いたいと思っていてくれた事が本当に嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
     三人で過ごした日々が、またフワフワと頭に浮かんでは来たけれど、今度は悲しい記憶ではなくて、何気ない幸せな日常で。
     朝陽が窓から差し込んで、鍋から立ち込める湯気が白く煙っている。振り返ると、僕の作る朝食を待つ二人が見えた。
    「フシ……」
     顔を埋めたままのフシに声をかけると、少し顔を上げてチラと横目で僕を見る。
    「ありがとうございます、忘れないで、いてくれて」
     涙に詰まりながら精一杯の気持ちを伝えたのに、何故かフシはジトリと拗ねこくった目で睨んでくる。元々ジト目だけれど、さらにそうなっているから、不覚にも可愛いと思ってしまう。
     そのフシのジト目は、泣いたように赤く滲んでいた。
    「お前な、ずっと傍にいるって言ってたじゃないか、何で今なんだよ。お前はおれのこと、忘れてたんじゃないかっ。嘘ついたな……」
     プイとあっちの方を向いて怒っているフシがたまらなく愛おしくて、僕の背中にあった手を解くと、ポカンとしたフシを両手でぎゅっと抱き締めた。細かいことは忘れていた。こんな場面でもフシは相変わらず肩に力が入ってガチガチだから、それも懐かしくてつい余計に力が入ってしまう。
    「私がフシを忘れるなんて、そんな事ありえませんよ。諦めが悪いのは、知ってますよね?」
    「それは知ってるけど、遅いよ。なぁ、ちょっと加減してよ」
    「あ、ごめんなさい、つい。あの……、少しだけ、このままでいてもいいですか? ダメなら、いいですけど」
    「……、あー、今だけなら、いいけど……」
    「ええ、それでもいいです。エコさんごめんなさい、今だけは、フシを独り占めしていいかな?」
    「今だけだけだからなぁ、早く泣き止んでくれよ?」
     フシの掌はまた僕を捕まえている。
     その後ろで、エコは手持ち無沙汰な両手を後ろにふふふと笑った。

     
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