帝乱冒頭 「ん」
手を伸ばした先にあるはずのものが、気づけば乱数の手の中に収まっていた。
そんな魔法を使ったのは見知ったチームメイトのようだ。シェルフの前で背伸びしかけていた乱数は、裁縫セットとして使っているそのポーチを両手に、すとんとソファへ着席した。
「ありがと〜。なんでわかったの?」
少しの動揺を悟られないよう言葉を繋げる。顔を上げると、帝統はなんてこともなかったように元の位置に戻り、コーラを注いだグラスへ口をつけていた。
「んあ?見てたからわかったんだよ。そんでさ、その時ドル箱がガシャーン!って全部ひっくり返って……」
ぎゅっと胸が熱くなる心地がした。そのざわつきの正体を言語化する前に、作業に気持ちを戻す。帝統のアウターを膝の上に乗せて、破れた裏地を再び検分する。
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