潜入前日 後日談~彼のいない11月7日~――これから墓参りに行くぞ
志保がそう誘われたのは今朝のこと。
阿笠邸に突然現れた萩原千早は、インターフォン越しに開口一番そう言った。
志保は急かされるままに千速が乗ってきたバイクの後部座席に乗りこむと、連れてこられたのは渋谷にあるお寺・月参寺だった。
ふたりは本堂の横を通り抜け、その裏手にある墓所へと辿り着いた。そこから先は、志保は千速の後ろについていき、右、左と曲がり石列に沿って進む。そして、ある墓石の前で千速はピタリと足を止めた。
『萩原家之墓』
今日、11月7日――千速の弟・萩原研二の命日。
「ひと足遅かったようだな」
千速はため息交じりにそう呟いた。
そこには、もう花束が手向けられていた。
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