延命「ただいま帰りましたぁ〜」
と、ごきげんな声が玄関から飛び込んできて、俺はスマートフォンをいじる手を止めた。声の主はそこら中をガタガタドタドタ言わせながら近づいてきて、俺の座るラグに滑り込んでくる。部屋ん中でヘッドスライディングするやつがおるか、アホ。ていうか勝手に俺の膝占領せんでもらえます?
不満を込めた眼差しを気にもとめず、男――隠岐はへらへらと見上げ返してきた。
「ただいまあ」
唇が開かれるなり酒のにおいが溢れ出す。どんだけ飲んでんねんこいつ。呆れながらも目にかかってる前髪をどけてやると、垂れた目尻が緩んだ。
「やさし」
「やろ? ……重たいからはよどいて」
「ねえ先輩、おかえり言うて。おれ、先輩に会いたなって、めっちゃ急いで帰ってきたんですよ?」
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