悲鳴嶼は夏が嫌いだ。
夏生まれだが、暑さに強いわけではないしマリンスポーツが好きなわけでもない。筋肉量が人並み以上にあるために体温は高く、暑さを感じやすい。
ここ最近、より一層夏が嫌いになった一番の理由は悲鳴嶼の愛しい恋人のせいである。
紆余曲折の末にお互いの気持ちを知って晴れて恋人になり、そして今現在同棲するまでに至った。自分で言うのもなんだが、うまくいっていると思う。
だが、しかし、だ。
一緒に暮らしていて夏が嫌いだと悲鳴嶼は何度も思った。
実弥は暑がりである。
暑がりだが夏が嫌いなわけではないらしい。
悲鳴嶼はスキンシップが好きだ。よく言えば構いたがりで悪く言えば束縛しがちなのだと思う。小さい頃、家で飼っていた茶トラの子は母のことが一番大好きで、よく悲鳴嶼の手からするりと抜け出し母の膝の上に行ってしまっていた。母にお前は構いすぎなのよ猫は自由が好きなのよと言われて、幼い悲鳴嶼はショックと共に動物との距離を学んだと思う。
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