時系列は数日前に遡る。
仕事を終えたクリスは、帰宅前に海に寄らんと駅へ向かう途中だった。
その頬に突然、冷たい感触がひとつ。
人差し指ですくってみると、僅かに降り始めた雨の水滴だと分かった。
(おや……通り雨ですか。仕方ありません。今日は帰りましょう)
やむを得ない予定変更に残念な気持ちを抱きつつ、乗る路線の切り替えを決める。
目標の駅の前に、ひとつ踏切を渡らなければならない。運行間隔が長いわけでもなく、踏切の間に歩道橋めいた通路や階段が設置されてもいない場所だ。雨足が強くならないか不安なクリスは、踏切を渡り終えたらビニール傘を買うか買うまいか考えていた。
アスファルトが僅かに音をたてる道、赤く点灯する踏切のライト。遠くから聞こえてくる、電車が線路を走る音。
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