最後は雨の中傘をさして歩きましょう「番になって欲しいんです」
重力を無視した速度で、ゆっくり俺に向かって歩いてくる男
エーテル結晶の光を抜け、足音もなく近付く
「番だぁ?」
「はい、僕と番になってくれませんか?」
勾玉で拵えた飾りと、巫女のような姿
身体を覆うように毛皮のようなものを羽織っている
ただの下級妖怪などではない風貌だ
「話が見えねぇな」
「あ、あの、この近くに社があって
そこの主をしている狐なんですが…」
確かに社はある
あるが、とうの昔に管理していた奴が死んで
誰も手を付けないまま放置された朽ちた社だ
確かに狐の置物があった
「で、そんなお狐様がなんで俺なんかと番だなんだ言ってんだ?」
「ずっと、見てたんです」
整った顔が綻ぶ
吊り目な瞳が幾分垂れて、俺を見つめる
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