北村想楽は旅をしていた。あてどもなく山道を歩いている。
その中途では人ともすれ違った。お参りのような、修験者のような恰好をし笠を被った人たち。
試しにこんにちはと挨拶をする。返事はなく黙々と彼らは想楽と反対の方向に行ってしまう。二三度繰り返したが同じだった。
つれないな、と思う。だが思うだけだった。自分は一人で旅をしているのだ。最悪帰るまで誰とも話をしなくてもいいはずだ。
いいはず、だった。
山道と言っても所詮は整備された道だ。車は見かけていないけど車道もある。
ほらちょうどそこに、カーブミラーが。
「…え?」
見上げた先、銀の世界に映った世界。全てが反射するはずのその中に。
北村想楽の姿しか、見えなかった。
◆◆◆
1777