ノイズを聞かせて 音楽を聞くときは、布団のなかに縮こまっていた。音が漏れて父の機嫌を損ねてしまっては、大変なことになるからだった。
父方の伯父がお下がりにくれたヘッドフォンは、中学生の秋には少し武骨なフォルムをしていた。サイズが合っていなかったのか、長く装着していると耳が痛くなった。それでも、脳髄の後ろのほうを揺さぶる重低音、最奥まで貫くボーカルの高音が、秋の放課後を楽しませてくれた。
ヘッドフォンを着けている間は、ほかに何も聞こえなかった。父のねちねちとした文句も、母の掠れた悲鳴も、すべて恋する乙女の歌に掻き消されていた。何もかもを遮断するあまり、自分を呼ぶ声にも応えられなかったときは、少し焦った。呼び声の主が母だったからよかったものの、もしもこれが父親であったなら、音楽プレーヤーごと取り上げられていただろう。それからは、音量を下げて聞くようにした。
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