愛し子を待つ間は「ふんふんふ~ん、てんてんてん!」
調子外れながらも愉しげな鼻歌が、聴こえてくる。
愛らしいことこの上ないと緩む口元に手を当て、表情を作り直した。
「あ、おかえりなさい!」
玄関からリビングへと進めば、可愛い妻が重たげな腹をさすりながら振り返る。
柔らかな笑みを浮かべつつ彼女に近寄り、その肩を抱いた。
「ただいま、立香……ところで、どうして動いているのです?」
「え? ……あっ! えーと、うーんと……」
一切警戒をせず捕らえられた少女は、逃げられなくなってからようやく慌て始める。
その手から雑巾を奪い取れば、ぷくりと丸い頬が膨らんだ。
「安定期なのにぃ」
「だからとて、無理をしていいわけではありません」
「無理ってほどじゃ……」
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