Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    fgo_sawara

    @fgo_sawara
    小説あげるマン

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 99

    fgo_sawara

    ☆quiet follow

    6/19の鯖ぐだオンリーイベント、天文台のキセキの灯火2で頒布したケイぐだ結婚合同誌「Sagittarius honey」の小説のおまけです!

    #ケイぐだ♀

    愛し子を待つ間は「ふんふんふ~ん、てんてんてん!」
     調子外れながらも愉しげな鼻歌が、聴こえてくる。
     愛らしいことこの上ないと緩む口元に手を当て、表情を作り直した。
    「あ、おかえりなさい!」
     玄関からリビングへと進めば、可愛い妻が重たげな腹をさすりながら振り返る。
     柔らかな笑みを浮かべつつ彼女に近寄り、その肩を抱いた。
    「ただいま、立香……ところで、どうして動いているのです?」
    「え? ……あっ! えーと、うーんと……」
     一切警戒をせず捕らえられた少女は、逃げられなくなってからようやく慌て始める。
     その手から雑巾を奪い取れば、ぷくりと丸い頬が膨らんだ。
    「安定期なのにぃ」
    「だからとて、無理をしていいわけではありません」
    「無理ってほどじゃ……」
     床拭きはさすがに控えるものの、平気で身長より高い棚の上を拭こうとする。
     心配だ。動けるようになったらすぐに動いて、手の届かないところで無理をしそうで……居ても立っても居られなくなる。
    「私を安心させるために、ね?」
    「う……わかった」
     懇願するような眼差しを送れば、立香は唇を尖らせた。
     拗ねた子供に似た面持ちに、つい笑ってしまいそうになる。
    「さて、お腹の子にもただいまを言いますか」
     彼女をソファに座らせ、話を逸らすことに尽力する。
     横着して、洗面所より手前のキッチンで手を洗った。
    「パパのこと待ってるよ~」
     悪戯っぽく少女が笑う。
     それだけで足早になってしまうのだから、私も大概操りやすいのかもしれない。
     そっと布越しの膨らんだ腹に触れる。
    「……ただいま、良い子にしていましたか?」
    「元気に暴れてたんだよ?」
    「はは、それはそれは……あまりお母さんを困らせないように」
     とは言え、健康でさえあればいい。
     元気に生まれてくれたなら、あとは存分に愛するだけだ。
     堪らなく愛おしい子が眠る腹に、軽く口付けを落とす。
    「ふふっ、くすぐったい」
    「あぁ、こちらの可愛い子にキスをしていませんでした」
    「ぁ、んん……」
     少女の唇を塞げば、蜂蜜色はとろりと蕩けた。
     膨らんだお腹に気を遣いつつ、口付けを深くする。
    「ふ……ぁ、んっ」
     小さな舌を絡め取り、存分に味わった。
     愛しい立香。名残惜しく思いつつも唇を離す。
     蜂蜜色の瞳がとろりと蕩けていた。
    「はっ、はっ……」
    「ふむ、夕飯をつまみ食いしましたね」
    「やだっ、そういうこと言わないで!」
    「ははははっ」
     頬を真っ赤に染めた彼女が、愛おしくて堪らない。
     今日の夕飯はお惣菜のエビチリか。
     昨夜それとなく話題に出しておいたから、まんまと食べたくなってくれたのだろう。
     手軽であり、かつ散歩ができればと思った。本当は自分がいないときに出かけて欲しくはないのだが、そういうわけにもいかない。
    「あっ……動いた」
    「すこぶる元気な様子で、何より」
     どんっ、とお腹を蹴られたらしく、彼女の表情が歪む。
     毎回ゾッとするほど心配になるけれど、一瞬の後の嬉しそうな微笑みに安心させられるのだ。
    「愛しいね、すっごく……」
    「ええ……貴女は私に、底なしの愛おしさを教えてくれる」
     温かな感情は、彼女がくれたもの。
     そして彼女とお腹の子に注ぐもの。
     膨らんだお腹に手を当て、そっと優しく撫でた。
     まだ性別もわからない、単なる生命がこんなにも愛おしい。
    「ご飯の用意、しよ?」
    「ええ、ですが……もう少しだけ」
    「ふふっ、しょうがないなぁ」
     妻の腰に手を回し、その腹に頬を寄せる。
     甘えたような仕草にも彼女は呆れることなく、優しく髪を撫でてくれた。
     もう母性があるのだろうか。紛れもない愛情のこもった手が、心地よくて堪らなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works