空腹沙汰も、モラ次第! ない。
目をこらしても、ひっくり返しても、元素視覚を使っても。蛍とパイモンは額を突き合わせて、悲しいほどに軽くなってしまったそれの中身を見つめた。しばらく経って、受け入れがたい事実をどうにか認識した二人はゆっくりと顔を上げる。こわばる顔。垂れる冷や汗。どうしてこうなった――二人の思考は今だかつてないほどシンクロしていた。
「……」
心当たりがないわけではない。否、ありすぎる。モンドで舌鼓を打った鹿狩りの料理の数々。璃月で買い込んだ希少な鉱石。稲妻の八重堂で揃えた限定の小説本。冒険者協会からの依頼をこなして手に入れた臨時収入は、たしかに蛍とパイモンの手によって等価交換されていた。
蛍はもう一度だけ、財布をのぞき込んだ。やはりない。ないものはない。からっぽの財布の口が、呆れたように開いているのみだ。
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