(1)出会い編1
――深夜未明。イギリス、リヴァプールにて。
薄汚れた部屋の一室。
ツンと鼻腔を掠める薬品の刺激に眉間のシワを更に濃くする男が一人。
男はその手に持つ日記を忌々しく睨みつけていた。
古く薄汚れたそれを乱雑に閉じて、音もなくその場を立ち去る。
薄らと歪めた口元には、確かな厭悪と嘲笑を浮かべていた。
――日本、東京郊外。
夏の終わりが近付いているとはいえ、日本の夏は最後まで暑い。まるでチョコたっぷりのアノお菓子のように、それはもうたっぷりと最後の最後まで夏だ。
恋人の見つからぬ蝉の声を聞き流し、はだけかけた薄手のカーディガンを肩にかけ、羽海野ひなは大学の講義を終え広いキャンパスを歩いていた。
駅から大学まで徒歩たったの15分。
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